賃貸経営の大きな悩みのひとつが、メンテナンスではないでしょうか?「メンテナンス、やったほうがいいよなあ……」と思いつつも、手を付けられていないオーナーさまが少なくないでしょう。
メンテナンスは大きく「事後保全」と「予防保全」に分けられます。とりわけ予防保全が大切で、資産価値を維持したり入居者満足度を向上させたりするのに欠かせない施策のひとつです。
本稿では、賃貸マンションやアパートが実施すべき季節ごとのメンテナンスをご紹介します。メンテナンス計画を策定する際の参考にしてください。
目次
賃貸マンションやアパートが実施したい【春のメンテナンス】
それではさっそく、春のメンテナンスからご紹介しましょう。
外回り (屋根や外壁、雨樋など)・共有部の点検
春は、比較的天候が安定しています。ですから、外部を修繕するのによいシーズンです。裏を返すと塗装や足場業者などの繁忙期とも言えます。必要に応じて、早めに業者を手配しましょう。
外部では、たとえばこんなところの点検が必要です。
- 屋根・屋上
- 外壁
- 共有廊下・階段
- エントランス
まずは、冬季に雪害等で傷んだ箇所がないか確認しておきましょう。破損や雨漏り箇所、あるいはシーリング切れなどがないかチェックして、梅雨に入る前に修繕しましょう。
昇降機(エレベーター)がある場合は、毎年、法定の定期検査を実施する必要があります。国家資格保有者に検査を依頼して、検査結果を行政庁に報告してください。
参考:建築基準法 第12条3項
面積が1,000m²を超えるアパートやマンションは、建築設備定期検査も義務付けられています。毎年、劣化状況や作動状況などを確認して、行政庁に報告してください。
こちらの検査対象は、建物ではなく設備です。給排水設備や換気設備、排煙設備、非常用照明装置設備など(自治体により異なる)の点検が必要です。
基礎・床下・排水口の点検
春は、建物の地面近くを点検しておきましょう。とりわけ木造の建物は、基礎や床下、外周をチェックしておくとよいでしょう。
ご存じのとおり、暖かくなるとシロアリの活動が活性化します。蟻道や羽アリの羽がないか確認しておきましょう。羽アリ自体を見つけたら、シロアリかどうかチェックしましょう。
梅雨が近づいてきたら、マスや排水溝の点検・掃除をしておくとよいでしょう。
空調のメンテナンス
共有部に空調設備がある場合は、メンテナンスしておきましょう。使い終わった暖房設備の清掃と、夏場に向けて冷房設備の動作確認をしておくとよいでしょう。
シーズン中に故障すると、修理や新品の納品に時間がかかってしまいます。オフシーズンであれば、修理や新品が必要になったとしても、シーズン中より安く済むでしょう。
賃貸マンションやアパートが実施したい【夏のメンテナンス】
つづいて、夏のメンテナンスをご紹介します。
貯水槽・配水管の清掃
水道法では、有効容量が10tを超える給水設備(簡易専用水道)の設置者に、水質検査や貯水槽清掃などを義務付けています。10t未満の場合でも、これに準ずる管理が求められます。
管理を怠ると、雑菌が繁殖しやすくなり、入居者の健康を脅かしかねません。給水設備の老朽化も早まりますので、保全費用の増加にもつながるでしょう。
とりわけ気温が高い季節になると、雑菌が増えやすくなります。トラブルが起こる前に、貯水槽の清掃を終わらせておきましょう。
参考:デジタル庁『水道法第34条の2の規定に基づく簡易専用水道の定期の検査』
なお、貯水槽の清掃を実施する際は、一時的に断水する必要があります。このことから、学校や企業は、長期休暇に入る時期に清掃を委託する傾向があります。
ですから、貯水槽の清掃は夏休みシーズン中が繁忙期になります。その前に終わらせておくとよいでしょう。夏休み中にトラブルが発生してしまうと、緊急対応してもらえず、困ることになります。
水道関連のトラブルでは、詰まりやニオイも注意が必要です。入居者からクレームが出ているようであれば、あわせて排水管の清掃も実施しておくとよいでしょう。
防虫・害虫・カビ対策
夏は虫が発生しやすい時期です。敷地内に蚊やハエなどの害虫が発生しそうな場所がないか、水はけが悪い場所や雑草が生えている場所がないか、よく確認しておきましょう。
夏は、植物の成長も著しい時期です。外構に植栽があるようなら、伸びすぎないように注意して、必要なら刈り込みをおこないましょう。枝葉が隣家へはみ出すと、トラブルになりかねません。
夏は、カビ対策にも気を配りたいところです。共有部のカビ対策、ならびに入居者への周知をおこなうと、カビの繁殖の抑制に効果があるのではないでしょうか。
カビは、入居者の健康被害につながったり繁殖した場所の見た目を悪くしたりと、よいことがありません。また、カビが生える場所は木材腐朽菌にとっても好条件と言えますので、注意が必要です。
ちなみに、カビの生育には以下の4つが必要です。これを取り除くと、カビの繁殖を抑えられます。
- 酸素
- 養分
- 温度
- 水分
上述の中で「酸素」と「温度」は取り除けません。「養分」も、ホコリや建材など何でも養分になってしまうため、完全に取り除くのが難しいでしょう。
そうなると、できることは「水分」の抑制、つまり「できるだけ乾燥させる」ことが大切になります。湿度60%未満の状態を維持できるように、工夫していただくとよいでしょう。
たとえば、入居者に除湿機の使用を推奨したり、改修の際に調湿効果の高い内装材を使ったりする方法が考えられます。
雨漏り・外回りの確認
梅雨どきは、雨漏りに注意しましょう。雨漏りが疑われるときは、台風シーズンの前に修繕してしまいましょう。
台風シーズンの備えも必要です。外回りを点検して、破損箇所を見つけたら早めに修繕しておきましょう。瓦や網戸は、飛ばされないでしょうか?塀や擁壁は、崩れそうになっていないでしょうか?
なお、9月は台風シーズンで、10月と11月は屋根・外壁塗装業者の繁忙期です。ですから、9月までに点検と修繕を終えておくと安心です。
賃貸マンションやアパートが実施したい【秋のメンテナンス】
つづいて、秋のメンテナンスをご紹介しましょう。
防災関連設備のチェック
ご存じでしょうか?9月1日は「防災の日」です。賃貸物件でも地域に即した防災訓練を実施して、防災機器や消火設備、備蓄防災グッズの確認をおこなうのによいタイミングでしょう。
とりわけ、台風シーズンや乾燥する冬が近づいていますので、以下の対策や防災マニュアルを見直しておく必要があります。
- 暴風
- ゲリラ豪雨
- 洪水
- 土砂災害
- 火災
なお、消防設備は消防法で点検と結果の報告が義務付けられています。頻度は以下のとおりです。
- 機器点検:6か月に1回
- 総合点検:1年に1回
人命に関わりますので、法令を順守しましょう。
参考:消防法17条の3の3
空調のメンテナンス
秋も、空調設備のメンテナンス時期です。春とは逆で、使い終わった冷房設備のお手入れと、冬場に向けて暖房設備の動作確認をおこないましょう。
冷房シーズンのあとは、空調設備の内部にカビが生えやすくなっています。冷房を使うと、機体が冷やされ結露が発生するため、内部の湿度が上がるからです。
冷房シーズン後の空調設備は、送風運転等を利用して内部をしっかり乾燥させてください。空調の清掃業者を入れる場合も、この時期がよいでしょう。
落ち葉の清掃と排水経路の確認
秋から冬にかけて、落ち葉が増えます。清掃をおこなうことはもちろん、樋や排水経路などに詰まっていないか確認しておきましょう。
放置すると、台風時や豪雨時にオーバーフローを起こしやすくなります。
賃貸マンションやアパートが実施したい【冬のメンテナンス】
最後に、冬のメンテナンスをご紹介しましょう。
凍害・雪害対策
冬が近づいてきたら、入居者に通水や水抜きなどの凍結予防対策を周知しておきましょう。
冬に多いのが、凍結による配管の水漏れです。配管内にたまっている水が凍結で膨張して、配管に亀裂を生じさせたり破裂させたりするのです。
降雪地域は慣れているので、あまり心配ないのかもしれません。凍結・降雪対策の設備も整っているでしょう。
一方、降雪が少ない地域は、まれに雪が積もるとよくトラブルに発展します。たとえば、こんな問題が起こったことはないでしょうか?
- 屋上に雪が積もり漏水する
- 入居者が足を滑らせて転んでしまう
- 駐車場で車がスリップする
冬季は気象情報に注意を払い、雪が積もりそうな場合は事前準備をしておきましょう。融雪剤やスノーショベル(スコップ)があると便利です。
給湯システムのチェック
冬は「もっとも給湯器に壊れてほしくない時期」ではないでしょうか。真冬に壊れたら、大変です。点検の時期が来ているものは、点検を済ませておきましょう。
給湯器の稼働時間が増えると、水漏れ等の発生数も増えがちです。ときどき異常がないか見回っておくと、トラブルを早期に発見できるでしょう。
点検すると同時に、漏水に関する保険の内容も見直しておくとよいでしょう。築年数がたった物件は、一斉に給湯器の銅管から水漏れを起こすことがあります。
外装・内装のメンテナンス
春の移動シーズンを前に、外装や空き部屋の内装を見直しておくとよいでしょう。外装や内装が古ぼけていると、集客能力を低減させてしまいます。
外観の塗装は、退色していませんか?共有部の電気は、切れていませんか?空き部屋の壁紙は、めくれていないでしょうか?虫等の死骸は、落ちていないでしょうか?
細かいことかもしれませんが、このような施策の積み重ねが、空室率の低減につながりますよ。
季節ごとのメンテナンス計画を立てて、物件の品質を維持しよう
賃貸マンションやアパートのメンテナンスは一年中終わりがなく、面倒と感じる方もおられるかもしれません。しかし、メンテナンスは単なる「義務」ではなく、物件の価値を高める「機会」です。
ご存じのとおり、民法611条の改正で、オーナーさまの修繕義務が厳格化されています。シーズンごとに点検をおこなうことで、トラブルや賃料減額のリスクを下げることもできるでしょう。
賃貸住宅のメンテナンスは、建物の寿命を延ばし、入居者の満足度を高めるためにも不可欠です。
今日からでも季節ごとのメンテナンス計画を立てて、賃貸物件の価値を最大限に高めてみてはいかがでしょうか?
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