不動産仲介の現場で、売主との価格交渉に苦戦していませんか?「この価格では売れないのに、売主が強気な姿勢を崩さないので打つ手なし」⸺ と悩んでいないでしょうか?
そんな売主は、ただ値下げをお願いするだけでは納得しないでしょう。交渉を成功させるには、売主の立場や心理を理解し、適切なアプローチを取る必要があります。
本稿では、売主に納得してもらうための「価格交渉のコツ」をご紹介します。単なる値引き交渉ではなく、売主が自ら価格を調整したくなる環境をつくる方法をお伝えしましょう。
目次
売主との交渉をスムーズに進める3つのコツ
さっそく、売主との交渉をスムーズに進める3つのコツをご紹介します。
- 売主の立場を理解する
- 心理効果を活用する
- 価格以外の交渉材料も持ち込む
それぞれ、詳しく解説しましょう。
売主の立場を理解する

売主の立場を深く理解することは、価格交渉をスムーズに進めるうえで欠かせません。売主の立場を深く理解できれば、仲介担当者としての交渉力が飛躍的に向上するでしょう。
最終的に価格を決定するのは売主の「感情・状況・市場認識」です。この3つの因子に影響を与えられれば、売主の価格決定に介入することが可能です。
感情 | 「せっかくの家だから高く売りたい」「思い出があるから安売りしたくない」などの売主の感情。買主の熱意を伝えて「大切に住んでくれる」など、安心感を与える対策が有効。 |
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状況 | 「住宅ローンが残っている」「早く売らないと資金計画が崩れる」などの売主が抱える状況。「すぐに契約できる買主がいる」など、状況を打破する交渉が有効。 |
市場認識 | 「近隣の物件は高値で売れている」「この価格で売れるはず」などの売主の市場認識。市場認識を持った経緯の確認と、実際の市場価格とのギャップを示すことが有効。 |
売主が決定した売出価格を動かすには、どの因子にアプローチすべきか、しっかり見極めることが大切です。もっとも価格決定に影響した因子を特定して、変容を促す必要があります。
また、価格決定に影響した因子を見極めるには、効果的なヒアリングが不可欠です。売却の目的や売出価格設定の背景、売れないときの対処法などをしっかり聞き出しましょう。
心理効果を活用する

価格交渉の成否は、売主に納得してもらえるかどうかにかかっています。売主に納得してもらうには、人間心理を理解することが重要です。
人間心理を活用すれば、売主の意思決定に自然な流れをつくったり、交渉の障壁を取り除いたりできます。ただし、悪用せず、節度を持って活用する姿勢が求められます。
交渉の場で有効に働く心理効果をご紹介しましょう。
▼ハロー効果:権威性を高め信頼してもらう
あなたは「高学歴の人はビジネスでも優秀」と思い込んでいないでしょうか?「身だしなみがだらしない人は、仕事もできない」と思っていませんか?
このような思い込みを「ハロー効果」と言います。交渉ごとではこの効果を意識して、相手に「単なる取引の仲介者」としてではなく「信頼できる専門家」として認識してもらうことが大切です。
たとえば、こんな風に思ってもらえたら、価格交渉がスムーズに進みやすくなるのではないでしょうか?
- 「この人の意見は信頼できそう」
- 「この人がいるなら安心して取引できそう」
- 「この人が言うなら、この価格が妥当なのかもしれない」
仲介担当者に以下のような要素があれば、売主に上述のような印象を持ってもらえるでしょう。
- 基本的なマナー
- 傾聴力
- 整った身だしなみ
- 落ち着いた態度
- 不動産売買の豊富な知識
- 物件エリアの豊富な知識
- 客観的かつ専門用語を乱用しない説明
売主に「この仲介担当者は優秀だ。信用できる」と感じてもらい、価格交渉や取引の条件交渉をスムーズに進めましょう。
▼一貫性の原理:売却意思を明確にする
一貫性の原理とは、一度発言したことを一貫して守ろうとする心理効果のことです。「売主自身の言葉」を利用することで、交渉の方向性を決められるでしょう。
たとえば、以下の質問を通して売主に売却意思があることを明確に発言してもらいましょう。
- 「いつまでに売却を完了させたいと考えていますか?」
- 「できれば◯か月以内に売却を完了させたいのですね?」
売却意思を問う質問に売主が「はい」と答えることで、交渉を進めやすくなります。
ちなみに「はい」の返事を積み重ねることで同意を得やすくなると言われていて、これを活用した交渉術は「イエス・セット」と呼ばれています。
▼返報性の原理:譲歩を先に示して価格交渉に応じてもらう
返報性の原理とは、相手の好意に対して「何かお返しをしなければならない」と感じる心理効果のことです。先に譲歩し、後から交渉することで、売主の心理的ハードルを下げられます。
たとえば、以下のような小さな譲歩を先に示します。
- 「買主側で手続きの一部をサポートできます」
- 「買主が引き渡し時期を売主さまの都合に合わせます」
まず譲歩を示すことで、価格交渉にも応じてもらう流れをつくりやすくしましょう。
▼アンカリング効果:低めの価格提示から徐々に上げていく
アンカリング効果とは、最初に提示された情報がその後の判断基準を決めてしまう心理効果のことです。
売主は、当初は自分が決めた売出価格を基準として認識しています。しかし「買主は◯◯万円を希望しています」と伝えると、今度はその金額をひとつの基準として意識することになります。
ですから、最初から適正価格で交渉するよりは、まず相場より低めの価格を提示してから適正価格まで上げることで、売主の譲歩を引き出しやすくなります。
ちなみに、最初に飲み込みづらい要求をおこない、その後のより合理的な要求を飲ませる交渉術を「ドア・イン・ザ・フェイス」と言います。
▼フレーミング効果:売主にもメリットがあることを伝える
フレーミング効果とは、同じ内容でも伝え方が変わると相手の受け取り方も変わってしまう心理効果のことです。
たとえば、以下のように「売主にとってのメリットを強調する言い方」に変えることで、交渉がスムーズに進むでしょう。
- NG「その価格では売れませんよ」
- OK「この価格なら売却期間が短くなり、維持費負担が減ります」
- NG「値引きが必要です」
- OK「この条件なら、確実に買主が即決できます」
売主のメリットを伝えるときは、先述の「価格決定因子 (感情・状況・市場認識)」にフォーカスするとよいでしょう。より効果を発揮できます。
▼希少性の原理:期限を伝え背中を押す
希少性の原理とは、人が「手に入らなくなるかもしれない」と感じたときに決断を急ぐ心理効果のことです。「今決めるのが最善」と売主に感じさせることで、交渉を前進させられます。
たとえば、交渉に以下のような「期限」を設ける方法があります。
- 「買主は他の物件も検討していますので、この条件で決められるのは今週中です」
- 「金利の上昇が予想されるため、買主の購買意欲が低下する可能性があります」
このような人間心理を武器にすることで、売主が自然と交渉に応じる環境をつくり出しましょう。ただし、繰り返しになりますが、悪用は厳禁です。
価格以外の交渉材料も持ち込む

価格交渉だけでは限界があるため、価格以外の交渉材料を活用することも重要です。売主が納得感を得られる形で条件を調整し、Win-Winの着地点を見つけることが成功のカギとなります。
アプローチ方法としては、以下のふたつが考えられます。
- 売主側にメリットのある条件を付加して、価格交渉に応じてもらう
- 買主が価格以外の条件を交渉材料にすることで、折り合いをつける
それぞれ、もう少し詳しく解説しましょう。
▼売主側にメリットのある条件を付加して、価格交渉に応じてもらう
売主が重視するのは価格だけではありません。交渉をスムーズに進めるには、売主が価格以外に気にしている要素を見極め、そこを交渉材料にすることも大切です。
たとえば、売主から事情をよく聞くと、以下のことがわかるかもしれません。
- 引き渡し時期 ⇒ 自分の予定に合わせたい
- 手続きの負担 ⇒ できるだけ手間をかけたくない
- 売却のスピード ⇒ できるだけ早く売りたい
- 税金の軽減 ⇒ 固定資産税などを抑えたい
このような状況なら「引き渡し日は、売主さまのご都合に合わせられます」や「司法書士は売主側で準備します」などのトークが有効に働く可能性があります。
売主の「価格以外の関心事」にアプローチすることで、交渉の突破口を開きましょう。
▼買主が価格以外の条件を交渉材料にすることで、折り合いをつける
買主が価格以外の条件を交渉材料にすることで、折り合いをつける方法もあります。たとえば、以下のようなケースです。
- 売主の費用負担で、物件の修繕を実施してもらう
- 所有権移転登記の費用を売主に負担してもらう
売主の状況によっては、価格を下げたくても下げられないケースもあるでしょう。たとえば、以下のようなケースです。
- 住宅ローンの残債があり、一定額以上で売る必要がある
- 売却益を次の購入資金に充てるため、値下げが厳しい
このような場合は、価格交渉だけではらちが明かないでしょう。「固定資産税の清算をせずに売主に負担してもらう」などの交渉で折り合いをつけるのが現実的です。
【売主の状況別】交渉のポイント

つづいて、売主が売却を急いでいる場合と、急いでいない場合に分けて、交渉のポイントをご紹介します。
売却を急いでいる売主への交渉術
売主が売却を急いでいる場合は、最初から市場相場に近い現実的な価格設定をしていることが多いでしょう。しかし、交渉の余地がまったくないわけではありません。
売主が売却を急ぐ理由はさまざまですが、基本的に「期限内に確実に売りたい」というプレッシャーがあります。この心理をうまく活用し、売主が譲歩しやすい状況をつくることがポイントになります。
まず、以下のようなトークで売れ残りリスクを意識してもらうことが大切です。
- 「価格が高いと、長期化して売れにくくなる可能性があります」
- 「売却が長引くと、より値下げを迫られる可能性が高まります」
以下のようなトークで、市場の動向を使って交渉することも効果的です。
- 「今は金利上昇が予想され、買主が減少するリスクがあります」
- 「最近の成約データを見ると、この価格帯の物件は早く売れています」
また、以下のようなトークで売主に「今すぐこの買主と契約したほうがいいかもしれない」「この機会を逃すと、次の機会がいつになるかわからない」と感じてもらうことも大切です。
- 「買主は住宅ローンの事前審査を通過しており、確実に購入できます」
- 「この価格で合意できれば、すぐに契約に進む準備ができています」
他にも、手付金を増額するなど、売主に安心感を与えることが有効に働くケースもあります。
売主が売却を急いでいる場合は、単なる「値下げ交渉」ではなく、売主の不安を解消して納得感を得られる条件を提示しましょう。
売却を急いでいない売主との交渉方法
売却を急いでいない売主は、非常に手ごわいでしょう。なぜなら、売主には時間的な余裕があり、価格交渉に応じるインセンティブがないからです。
そのような売主は、以下のように考えています。
- 「いずれ売るつもりだが、今すぐではない」
- 「価格が上がるかもしれないなら、待つのが得策」
- 「急いで売ると足元を見られるから、価格交渉には応じたくない」
この心理を変えない限り、どんなに正論をぶつけても無駄になりかねません。
売主が「時間を味方につけて高値で売りたい」と考えているなら、逆に「待つことでリスクがある」と認識してもらうことが有効でしょう。
売主は「売るメリット」を考えているものの「売らないデメリット」には無頓着なことが少なくありません。この盲点を突くことで、交渉の糸口が生まれます。
トーク例をあげてみましょう。
- 「今は金利が上昇傾向にあり、買主の購買意欲が低下する可能性があります」
- 「物件価格は上がるかもしれませんが、買える人が減るリスクがあります」
- 「このまま所有していると、固定資産税や管理費がかかります」
- 「早めに売却して、資金を有効活用したほうが得策です」
時間をおくのもひとつの方法です。当初はかたくなだった売主でも、売却開始後2~3か月たっても売れなければ、方針を転換して価格交渉を受け入れるかもしれません。
もしくは、逆転の発想でこんなアプローチが有効に働くケースもあるでしょう。
- 「売却を急ぐ必要はないですよね」
- 「むしろ、今は売らずに他の方法を検討するのもアリですよね」
- 「短期的に貸して様子を見るのはどうでしょうか?」
- 「賃貸に出せば、家賃収入が得られますよ」
このアプローチは買主との交渉も必要ですが、いったん売主から賃貸で借りてもらうのもひとつの方法でしょう。
大家と入居者の関係になり、接触や信頼関係を積み重ねることで、買い手の希望額を飲んでもらえるようになる可能性があります。これも一種の心理効果で「単純接触効果」と呼ばれています。
不動産売買では、売主の状況を把握し、交渉方針を柔軟に変えることが求められます。人間心理や価格以外の交渉材料も活用して、成約への道を開きましょう。
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