令和3年4月に、改正民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)が公布されました。令和5年(2023年)4月から施行される運びです。
この改正で、隣地から樹木等の枝が伸びてきた場合、これまでより越境された側が切りやすくなります。枝の越境は、管理不行き届きの空き地などでよくあり、すでに困っている方には朗報でしょう。
とは言え、これまでどおり根は勝手に切れますが、枝は断りなく切れません。しかし、越境された側が行動を起こしやすくなるので、樹木の所有者はこれまでより対応を求められるケースが増えるでしょう。
良好なご近所付き合いを維持するために、庭木のメンテナンスができていない方は、今まで以上にきっちり管理していく必要があります。
目次
改正民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)の概要
さっそく、改正民法第233条の概要からご紹介しましょう。
相隣関係規定を見直し
令和3年4月に交付された改正民法では、相隣関係規定の見直しがおこなわれています。相隣関係とは、隣り合う土地どうしの法律的な関係のことです。
所有する土地は「所有権」により自由に使えます。とは言え、隣に迷惑がかかるような土地の使い方をするのはよくありません。そこで、民法では以下の相隣関係規定を設けています。
- 隣地に不利益がある使い方を制限する規定
- 起こりやすいトラブルを調整するための規定
たとえば、建築関連では「建物を築造するには、境界線から50cm以上の距離を保たなければならない」とする民法第234条第1項の規定が有名ですね。
本稿では、このような相隣関係規定のうち、改正で見直された以下の条項について要点をご説明します。
- 民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)
- 民法第209条(隣地の使用請求)
上述の条項の改正は、管理不全に陥り周囲に悪影響を及ぼしている住宅を想定しています。枝を越境された側の者であっても、その除去が合理的にできるようになる措置です。
旧法と改正法の比較
つづいて、民法第233条の旧法と改正法を比較してみましょう。
参考:法務省 民法等の一部を改正する法律案(令和3年4月28日公布) 新旧対照条文
旧法
旧法は、以下のとおりです。
1.隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2.隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
旧法では、たとえば竹木の生える土地の所有者が分からない場合、非常に面倒なことになります。枝を越境された土地の所有者は、以下の手順を踏む必要があるのです。
- 樹木の所有者の所在地を探す
- 枝の切除請求訴訟を提起する
- 請求認容判決を得る
- 強制執行を申し立てる
- 樹木の所有者の費用負担で切除させる
この一連の段取りは一般の方には遂行が難しく、弁護士等に依頼することになるでしょう。時間と労力も相当に必要で、越境された側の負担が大き過ぎます。
この状況を改善するために、2つの項が追加されました (2項と3項を追加して、旧2項は新4項に改編)。
改正法
改正法では、以下の太字の箇所が変更または追記されました。
1.土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2.前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3.第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。4.隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
なお、3項二号にある「相当の期間」は、事案にもよりますが、基本的には2週間程度と考えればよいようです。
参考:法務省 民法改正と「共有私道ガイドライン」の改訂について
つづいて、改正の主な変更点に着目してみましょう。
改正の主な変更点
まず、根については従来から越境された側が勝手に切除できるので、改正法でも内容に変更はありません。なぜ根の切除だけが認められているのか、その解釈は有識者の間でも多岐にわたるようです。
とは言え、建築する際に地面を掘り起こせば必ずと言っていいほど根が出てきます。その根の所有者をイチイチ突き止めるのは現実的ではありませんので、妥当な規定でしょう。
一方、枝については「共有の竹木の取り扱い規定」と「越境された側が切除できる規定」が追記されました。それぞれ、詳しく解説します。
共有の竹木の取り扱い規定を追加
土地は、共有名義になっていることがよくあります。旧法において、このようなケースで越境してきた枝を切るには、基本的に「共有者全員の同意が必要」と考えられていました。
一方、改正法では「竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる」としました。よって、越境された側は、竹木の所有者のひとりに枝の切除を求めればよいことになります。
なお、既出の法務省ガイドラインによると、以下も可能となっています。
- 越境された土地の所有者は、竹木の共有者の一人に対しその枝の切除を求めることができ、その切除を命ずる判決を得れば、代替執行(民事執行法 171Ⅰ・Ⅳ)が可能。
- 竹木の共有者の一人から承諾を得れば、越境された土地の所有者などの他人がその共有者に代わって枝を切り取ることができる。
越境された側が切除できる規定を追加
旧法では、切除を求めても竹木の所有者がこれに応じない場合、越境された側の対応等に関して定めがありませんでした。
一方、改正法では以下の特則を設け、これを満たせば越境された側が枝を切り取ることを認めています。
- 枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
- 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
- 急迫の事情があるとき
この改正により、隣地が所有者不明の空き地であっても対処できるようになりました。
なお、この規定は国や地方公共団体が所有している道路にも適用されます。道路の所有者は、隣接地の竹木が越境しているとき、改正法にのっとって枝を切除できます。
改正民法第209条(隣地の使用請求)の概要
民法第209条も改正(令和5年4月1日施行)され、既出の第233条にもとづく隣地の使用が認められようになりました。あわせてご紹介しておきましょう。
民法第209条の旧法は、以下のとおりです。
1.土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2.前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
改正法は、以下のとおりです。
1.土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第233条第3項の規定による枝の切取り2.前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3.第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4.第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
まず、1項の「隣地の使用を請求することができる」は「隣地を使用することができる」に改められました。これにより、隣地所有者の承諾を得なくても、要件を満たせば隣地を使えることになります。
とは言え、使用を拒否された場合は、妨害差止を求めて裁判手続きを取ることになるでしょう。原則的に、自力救済(法律上の手続きによらず、自力で権利を実現する行為)は禁止されています。
また、2項や3項にも注意しなければなりません。隣地所有者の利益にも、配慮が必要です。
越境された側が枝を切る場合の注意点
民法第233条改正で、隣地から越境してきた枝を切除しやすくなりました。とは言え、何でもかんでも切っていいわけではありません。
たとえば、以下の3点については留意する必要があるでしょう。
- 原則的には竹木の所有者に枝を切除させること
- 隣地の枝の越境によって、自己の所有地に実害があること
- 隣地との境界線がハッキリしていること
枝が越境してきた際、まず竹木の所有者に対して切り取るよう求めなければなりません。それを経て、なおかつ233条3項の特則を満たすとき、越境された側による切除が認められます。
また、枝の越境による実害がない場合は、切除を求めると権利の濫用(民法1条3項)になる可能性があります。越境された側にも、一定の慎重さが求められます。
隣地との境界が不明瞭な場合は、先に境界を確定しなければ越境を明らかにできません。筆界確認は費用がかかり、かつ容易に決着しないケースもありますので、未然に境界を明確にしておくべきでしょう。
ちなみに、本改正では以下の規定は設けられませんでした。ですから、この部分では明確な判断基準がなく、場合によってはトラブルになるかもしれません。
- 切り取る枝の範囲にかかる規律
- 枝や根の切除費用にかかる規律
竹木の枝は、切除してもまた伸びます。越境された側が境界より幹側で切除を望み、竹木の所有者は少しでも残すことを望んだ場合、合意形成が必要になるでしょう。
切除費用に関しては、通常竹木の所有者の負担となります。あえて規定を設ける必要性は低いと考えられますが、竹木の所有者が承知しないケースもないとは言えません。
根や越境した枝から落下した果実なども、切除費用や処分方法のルールが未設定です。土地の利用の円滑化に向けて、さらなる規定の検討が求められます。
空き家や賃貸不動産の所有者が注意すべきこと
今回の民法改正で、隣地へ越境した枝や根に対する注目度が高まります。これまでより隣家からクレームが入りやすくなる、と心づもりしていただくほうがよいでしょう。
まずは「竹木の枝や根がお隣の敷地まで伸びると、迷惑がかかる」と意識することが肝要です。そのうえで、定期的に確認や剪定をおこなわなければなりません。
もしも、クレームが入ったら早急に対処する必要があります。放置すると、以下の問題に陥ることもあり得るでしょう。
- 隣家に枝を切られる
- 費用を請求される
- 良好なご近所付き合いができなくなる
枝の切除は竹木を変形させる行為であり、場合によってはその価値にも影響を与えます。たとえば、道路にはみ出した枝を切られたことで目隠しの意味をなさなくなる等が考えられます。
ですから、敷地内の竹木に関しては、しっかり自己管理しておきたいところです。越境がなかったとしても、管理不全の状態では近隣に悪い印象を与え、良好なご近所付き合いを阻害してしまいます。
これは、竹木だけでなく建物にも言えます。メンテナンスの不備を放置すると、近隣からクレームが入りやすくなるだけでなく、劣化や老朽化を早めることにもつながります。
一方、しっかりメンテナンスができていると、劣化や老朽化を遅らせることができます。空室率の改善も期待できるでしょう。
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