家主が修繕義務を怠ると賃料減額!?民法611条改正の影響と対応策

2020年4月の民法改正で、賃貸事業者の責任が厳格化されました。賃借物の一部が「滅失そのほか使用および収益をすることができなくなった」場合、家賃は「当然に減額される」となったのです。

この改正で「対応が面倒」と感じた賃貸事業主様や管理会社様は少なくないでしょう。しかし、変革期は他社に先駆けることでビジネスチャンスにもなります。コロナ禍でも、迅速に適応した会社は業種を問わず順調に売上を伸ばしました。

今回、改正民法が施行された以上、それに則って粛々と対応していくしかありません。なるべく早く取り組んで、ノウハウの蓄積と合理化をおこない、競合他社に差を付けてみてはいかがでしょうか。

目次

民法改正(611条等)による不動産賃貸業への影響

2020年4月の民法改正で、具体的に条文がどう変わったのかご存知でしょうか。

対応策を検討する前に、まずはその変更点を把握しておかねばなりません。ひとまず改正内容をご説明したあと、対応策をご紹介します。

民法611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)改正

民法611条は、2つの項からなります。最初の項は賃料減額について書かれていて、新旧で以下の2点が大きく変わりました。

  1. 賃料減額について「減額を請求することができる」から「減額される」に変更
  2. 減額理由について「滅失」とだけ書かれていたものを「滅失そのほか使用および収益をすることができなくなった場合」に変更

「滅失」とは、火事等で賃貸住戸の一部が使えなくなる程度に破壊や消失した状態を指します。今回の民法改正では、この範囲を広げる文言に変更されました。

さらに、賃料の減額が必要な不具合が発生した場合、賃借人から家賃減額請求がなくとも家賃は減額するのが当然となりました。

ですから、たとえば通常なら利用できる機器や住宅設備、ライフラインが使えなくなると「家賃は当然減額すべき」と解釈されるのです。

もうひとつ。2項も改正され、賃借人の責任で賃貸物件の一部が滅失した場合でも「残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができない」ときは、賃借人による契約解除が認められました。

参考:民法611条

民法第607条の2(賃借人による修繕)新設

関連する規定として、平成29年の改正によって新設された「民法第607条の2」についても解説しておきましょう。この規定は、どのような場合に賃借人が修繕できるのかを明文化したものです。

アパートやマンションなどの賃借物は、賃貸人の所有物です。修繕が必要になったら賃借人が賃貸人に通知する義務(民法第615条)があり、それを受けて賃貸人が修繕しなければなりません (民法第606条)。

いっぽうで、民法第608条1項に以下の規定があります。

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

この規定は「賃借人が自らおこなった修繕の費用を、賃貸人に償還請求する権利が認められている」と解釈できます。つまり、賃借人にも修繕する権限があると認めた、と考えられます。

しかし、どのような場合に賃借人が修繕できるのかを定める規定はありませんでした。そこで、それを明文化するために新設されたのが、以下の2号からなる「民法第607条の2」です。

  1. 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
  2. 急迫の事情があるとき

つまり、賃借人が賃貸人に修繕の必要性を知らせたにも関わらず、相当の期間内に修繕しなかったとき。あるいは、緊急で修繕する必要があったときは、賃借人が修繕できます。

不具合の原因が賃借人になく、かつこの規定に従って賃借人が修繕をした場合は、賃貸人は賃借人から修繕費用の償還を請求されるとお考えください。

参考:民法第607条の2

改正民法611条にどう対応すべきか

そもそも消費者保護の印象が強い民法が、改正で賃貸事業者にとって今まで以上に厳しいものとなりました。これを受けて、物件オーナーや管理会社はどのように対応すべきか検討してみましょう。

契約書の見直しと、減額賃料の明確な基準を作成する

賃借人の責任ではない事由で、賃借物件の一部が滅失等により使用できなくなった場合、原則的には次の流れで修繕や原状回復をおこないます。

  1. 賃借人が賃貸人に不具合を通知して修繕を要求
  2. 迅速に現場にて状況を確認して、修繕業者を手配
  3. 修繕完了までに必要な期間の目安を賃借人に伝える
  4. 代替品や代替手段の提供が可能であれば手配する
  5. 状況に応じて必要な修繕・原状回復を実施

この一連の流れを賃借人とトラブルにならないように、かつ最小限の家賃減額で済むように進めたいところです。

ここで、賃貸人の頭を以下の不安がよぎるのではないでしょうか。

  • 不具合を通知せず、いきなり家賃減額を請求されたら?
  • 「不具合が発生したら即減額」は、賃貸人に酷すぎるのでは?
  • 減額請求に応じる場合は、いくら減額するのが妥当なの?

このような不安が的中して賃貸人との協議がトラブルに発展しないよう、紛争防止のための条項を契約書に書いておくほうが安心です。

まずは、先述の修繕の流れの1番目「賃借人が賃貸人に不具合を通知して修繕を要求」に関して「通知がされなかった場合には賃料が減額されない」旨の規定があるとよいでしょう。

これは、先述の民法615条(賃借人の通知義務)が参考になります。

参考:民法615条(賃借人の通知義務)

次に、減額する賃料の明確な基準として、予想される故障等の項目ごとに以下を設定しておくと安心です。

  • 賃貸人が修繕または代替物の手配に要する期間(免責日数)
  • 期間内に修繕または代替物の手配が完了しなかった場合の賃料減額割合

免責日数と賃料減額割合は、合理的な数字であることが望ましいでしょう。これは、日本賃貸住宅管理協会が作成したガイドラインが参考になります。

参考:貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン

ただし、上述のガイドラインの賃料減額割合は、家賃の金額によっては現実的ではないものもあります。たとえば風呂が故障した場合、銭湯代がまかなえない免責日数と賃料減額割合ではトラブルになる可能性が高まってしまいます。

弁護士等の法律の専門家に相談しながら、円満な解決に導けるような契約書につくり替えておくと安心です。

賃貸管理は、これまで以上に迅速な対応をおこなう

おさらいしておきましょう。2020年4月1日から施行された改正民法611条により、これまで賃借人からの請求が必要だった賃料減額が「当然減額制度」に変更されました。

賃貸物件で不具合が発生した場合、対応しだいでは賃借人と以下のようなトラブルになるリスクが上がったと言えそうです。

  • 賃借人が勝手に修繕してしまう
  • 当然の家賃減額が必要になる

ですから今後は、賃借人からの不具合の通知やそれを受けての修繕、および賃料減額がスムーズにおこなえる体制が欠かせません。

同時に、これまで以上に迅速な不具合の解消が求められます。「お抱え業者が忙しくて、修繕に時間がかかる」といった事態を避けるためにも、施工業者は複数抱えておくと安心です。

【まとめ】民法611条改正と賃料減額の対応策

民法611条の改正で、賃料の減額が必要な不具合が発生した場合、賃借人から家賃減額請求がなくとも家賃は減額するのが当然となりました。賃借人の責任で賃貸物件の一部が滅失した場合の、賃借人による契約解除も認められました。

民法第607条の2の新設では、賃貸人が相当の期間内に修繕しなかったとき、あるいは緊急で修繕する必要があったときは、賃借人が修繕してよいことが明文化されました。その費用も、賃貸人に償還請求できます。

これらの改正民法が施行された以上、それに則って粛々と対応していくしかありません。迅速な対応と修繕がおこなえるよう、法律の専門家に相談しながら、しっかりと態勢を整えておきましょう。

株式会社リペアは、地域密着のスピード対応で修繕工事をおこなっています。原状回復やリフォーム等も対応しておりますので、お困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。