近年、深刻な被害をもたらす暴風雨が頻発するようになりました。アパート経営では、これまで以上に雨漏り対策の必要性が高まっています。
ただし、必要な雨漏り対策は「建物の防水性能の維持」だけではありません。2020年の民法の改正にともない、オーナーには迅速な対応とそれを実現するための環境整備も求められています。
本稿では、アパートで雨漏りが発生したときの修理や対処方法について解説します。梅雨や台風の季節が来る前に、備えを進めておきませんか?
目次
雨漏りが発生したときの対処法
雨漏りが発生したときは、どのように対処すればいいのでしょうか。改正民法の内容を踏まえて、賃借人(借主)と賃貸人(大家)の立場にわけてご紹介しましょう。
賃借人(借主)が対処すべきこと
雨漏りの発生時に、賃借人が対処すべきことは、主に以下の3つです。
- 雨漏りの場所や被害状況を確認
- 雨漏り箇所や被害箇所の写真撮影
- 被害が大きくならないように家財を移動
賃借人が修繕の手配をする必要はありません。アパートは賃貸人の所有物ですので、原則として勝手に修繕を手配するのはよくないのです。
賃借人は、被害状況を確認したら、まず賃貸人に通知する義務があります (民法第615条)。それを受けて、賃貸人が修繕を手配しなくてはなりません (民法第606条)。
ただし、民法第607条の2にもとづき、以下の場合は賃借人が修繕できます。
- 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
- 急迫の事情があるとき
なお、不具合の原因が賃借人になく、この規定にもとづいて賃借人が修繕をおこなった場合は、その費用の償還を賃貸人に請求できます (民法第608条1項)。
賃貸人(大家)が対処すべきこと
では、雨漏りに対して賃貸人はどのように対応すればいいのでしょうか。
賃借人から雨漏りの通知と修繕の要求があったら、まずはお見舞いの言葉を伝え、解決にむけて協力して頂けるように誠実にお願いします。
万が一、家財等で被害を受けたものがあるようなら、現況写真や購入金額をまとめていただくよう依頼します。その後、以下の手順で速やかに修繕をおこないます。
- 迅速に現場にて状況を確認して、修繕業者を手配
- 修繕完了までに必要な期間の目安を賃借人に伝える
- 被害を受けた家財の代替品の提供が可能であれば手配する
- 状況に応じて必要な修繕・原状回復を実施
予防の観点から、台風が発生したら天気予報や進路予想に注意を払うことも大切です。可能であれば、不具合がないか見回りを実施していただくとよいでしょう。
なお、2020年4月の民法改正の影響と対応策については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
アパートの雨漏りの修理代金は、だれが負担するのか
さて、アパートの雨漏りの修理代金は、だれが負担するのでしょうか。法令の観点から、しっかり理解しておきましょう。
原則的には賃貸人(大家)が負担する
修繕の費用負担については「民法第606条1項」で規定されています。引用しておきましょう。
賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
出典:民法第606条1項
賃貸人は、賃借人がアパートを使用・収益できる状態に維持しなければならず、雨漏りが発生した場合は修繕義務が生じます。ただし、雨漏りの原因が賃借人にある場合は、この限りではありません。
たとえば、以下の状況では、修繕費は賃借人の負担になる場合があります。
- 雨水の排水溝に物を置いた
- 雨水の排水溝を故意に詰まらせた
- 屋根や外壁、サッシを損傷させた
また、契約書に「修繕は賃借人の負担とする」と明記されている場合も同様です (修繕費を賃借人の負担とする条件で家賃を下げる契約等)。
修繕義務を怠ると賃料減額もあり得る
2020年4月の民法611条改正により、賃料の減額が必要な不具合が発生した場合は、賃借人から家賃減額請求がなくとも家賃は減額するのが当然となりました。
減額金額は、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会がまとめた『貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン』が参考になります。
上述の資料によると、雨漏りによって利用が制限される場合の「賃料減額割合」と「免責日数」は以下のとおりです。
- 賃料減額割合:5%~50%
- 免責日数:7日
ただし、判例では事案ごとに個別判断がおこなわれています。絶対的な賃料減額基準があるわけではない、と認識しておく必要があるでしょう。
また、賃借人の責任で賃貸物件の一部が滅失した場合でも「残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができない」とき、賃借人による契約解除が認められています (第611条2項)。
ですから、雨漏りは絶対に放置してはいけません。一方、迅速で丁寧な対応をおこなえば、入居者の満足度向上や退去防止につながるでしょう。
機能や性能が向上する修繕の経費処理
余談ですが、機能や性能が向上する修繕の費用は「資本的支出」と見なされ、単年で経費処理できません。雨漏りがきっかけで外装の改修をおこなう場合は、留意する必要があります。
たとえば、以下の修繕費用は「資本的支出」となりますので、会計処理の際はご注意ください。
- 耐久性や遮熱性の向上を目的とする屋根塗装
- より美しく魅力的な色に塗り替える外壁塗装
- 豪華な外観にすることが目的の外観改修
上述のような改修費用は、一括で経費計上できませんので、減価償却する必要があります。
一方、建物の維持管理、あるいは原状回復を目的とする修理・改修は「修繕費」として計上できます。こちらも例をあげてみましょう。
- 雨水が浸入しないように、外壁のシーリング材を打ち換え
- 外壁の美観を保つために、色があせてきたタイミングで塗り替え
- 台風で破損してしまった外壁のキズやひび割れの補修
他にも、以下のようなケースでは一括で費用計上できます。
- 改良等のために要した費用の額が20万円に満たない場合
- 3年以内の期間を周期としておこなわれることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
参考:国税庁「資本的支出と修繕費 (少額又は周期の短い費用の損金算入)」
雨漏りの修理で、よくある疑問
最後に、雨漏りの修理でよくある疑問をご紹介して終わりたいと思います。
雨漏りの原因はなに?
雨漏りは、屋根が原因とは限りません。以下が雨漏りの発生箇所になるケースも少なくありませんので、点検される際はあわせてご確認ください。
- 外壁材やシーリング
- ベランダの防水層
- サッシまわり
屋内給排水管からの水漏れが原因の場合もあります。ですから目視だけでなく、部分解体調査や赤外線サーモグラフィー調査等のさまざまな方法で、総合的に雨漏りの原因を見極める必要があります。
雨漏りの原因特定と修理は、経験豊富な職人であっても簡単ではありません。迅速かつ丁寧で、腕が確かな優良施工業者を見つけておきましょう。
修理期間は、どれくらいかかる?
以下が、修理期間の目安です。
- 屋根の塗装・葺き替え:1~3週間
- 外壁の塗装・張り替え:1~3週間
- ベランダ防水:1~5日
- 窓や外壁のシーリング補修:1~3日
- 雨漏り箇所の部分補修:1~3日
ただし、雨漏りの修理期間は状況によって変わります。工期に影響を与える要素を、いくつかあげてみましょう。
- 雨漏りの原因や範囲
- アパートの構造
- アパートの規模
- 外壁材や屋根材の種類
- 外壁や屋根の劣化状況
- 修繕方法(工法等)
正確な期間を確認したい場合は、施工業者に現場調査してもらってください。
修理費用は、どれくらいかかる?
一般的な50~100坪程度のアパートの修理費用の目安は、以下のとおりです。
- 雨漏り箇所の部分修理:約5~30万円
- 防水工事(約200m²):約100~200万円
- 屋根塗装(約300m²):約150~200万円
- 外壁塗装(約500m²):約200~300万円
工期と同じく、修理費用も状況によって変わります。施工業者による差もありますので、相見積もりしていただくとよいでしょう。
ただし、雨漏りの修理業者は値段だけで選んではいけません。なぜなら、外装の改装をともなう場合は、美観や防水性の回復だけでなく収益性の向上も図れるからです。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
その他、雨漏りの程度によっては、お部屋のクリーニング代や入居者のホテル宿泊費等が必要になる場合もあります。
修繕費用をお得にする方法はあるか?
修繕費用を安く抑える方法がいくつかありますので、ご紹介しましょう。
- 雨漏り箇所の部分修理で済ます
- カバー工法を採用する
- 火災保険を使う
まず、雨漏り箇所の部分修理で済ます方法があります。ただし、応急処置的な修繕は根本的な解決にならず、再発や建物の老朽化の原因になる場合がありますので、ご注意ください。
屋根材や破損状況によっては、葺き替えではなく「カバー工法」を採用すると安くなるケースがあります。専門業者と相談しながら、コスト対効果を勘案して最適な工法を選ぶとよいでしょう。
台風等の自然災害が原因で外装材が破損して、雨漏りが発生した場合は、火災保険が使えるかもしれません。ご契約の損保会社にご相談ください。
【まとめ】アパートで雨漏りが発生したときの修理や対処の注意点
アパートで雨漏りが発生すると、賃貸人に即時対応が求められます。これを怠ると、賃借人から賃料減額や契約解除を要求される事態に発展しかねません。
木造の場合は腐朽菌やシロアリが発生する原因にもなりますので、雨漏りの放置は好ましくありません。建物の寿命が著しく短くなり、収益性が下がる要因になります。
実際に雨漏りが発生したときに入居者とトラブルにならないように、迅速に対応できる態勢を整えておきましょう。腕が確かな優良施工業者を複数社見つけておくと安心です。
以下の記事では入居者トラブルの予防策をご紹介しています。ご興味がございましたら、あわせてご覧ください。