【賃貸住宅】原状回復の東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)とは

人口の流動性が高い東京では、賃貸住宅が「なくてはならない存在」になっています。一方、賃貸住宅は貸主と借主の間でトラブルが多く、以前から解決すべき課題が散見されました。

たとえば平成28年度は、東京都都市整備局に契約や退去時精算等に関する相談が「16,926件」も寄せられています。このような課題の解決のために制定されたのが「東京ルール」です。

本稿では、東京ルールの要点を簡潔に解説します。東京ルールの全体像をざっと把握したい方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)とは

東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例)とは

さっそく、東京ルールの概要から解説しましょう。

東京ルールの概要とガイドライン

東京ルールの正式名称は「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例 (平成16年東京都条例第95号)」と言います。これを略して「賃貸住宅紛争防止条例」と呼ぶこともあります。

参考:東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例
参考:東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例施行規則

この条例は、近年増加傾向にある賃貸住宅の以下のトラブルを防止するために、東京都が平成16年10月に施行しました。

  • 入居中の修繕
  • 退去時の原状回復

これまで、修繕や原状回復の費用に関して、契約書の条項にあいまいな部分がありました。それが貸主と借主の解釈に相違を生み、敷金精算等のタイミングで紛争化する一因になっていたのです。

実際、冒頭でご紹介した「16,926件」の相談の内容は、上位3位が以下のようになっています。

  1. 退去時の敷金精算:38%
  2. 契約:18%
  3. 管理 (修繕含む):12%

東京ルールは、このような現状を改善すべく、修繕と原状回復の一般原則や契約内容を借主にしっかり説明するよう宅地建物取引業者に義務づけたものです。

宅地建物取引業者は賃貸住宅の借主に対して、重要事項説明に併せて、書面を交付したうえで説明しなければなりません (電磁的方法による交付も可、詳しくは後述)。

なお、東京都は『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』も作成して、東京ルールの普及・啓発を図っています。

法的な拘束力を持つものではありませんが、現時点で妥当と考えられる具体例が載っていますので、貸主も借主もご一読いただくとよいでしょう。理解を促進するための参考になります。

参考:賃貸住宅トラブル防止ガイドライン

ちなみに、東京ルールは契約内容や敷金精算の方法について規制するものではありません。ですから、借主は一般原則と契約内容を比較して、相違を理解したうえで契約することが重要になります。

義務づけられている説明の内容

宅地建物取引業者に義務づけられている説明の内容は、条例の第2条および条例施行規則の第2条で規定されています。以下にあげておきましょう。

  • 住宅の使用および収益に必要な修繕について(入居中の修繕の基本的な考え方)
  • 退去時における住宅の損耗等の復旧について(原状回復の基本的な考え方)
  • 実際の契約における賃借人の負担内容について(特約の有無や内容など)
  • 入居中の設備等の修繕および維持管理等に関する連絡先

度々お伝えしているとおり、東京ルールが宅地建物取引業者に義務づけているのは「(1)修繕」と「(2)原状回復」に関する費用負担等の説明です。

このふたつの一般原則(基本的な考え方)がどうなっているのか。そして、今回の契約や特約はどうなっているのか、借主が比較できるように伝えなければなりません。

なお、説明義務の対象となる住宅は以下のとおりです。

  • 東京都内にある居住用の賃貸住宅
  • 平成16年10月1日以降の新規賃貸借契約
  • 宅地建物取引業者が媒介または代理をおこなう物件

東京ルールは、店舗・事務所等の事業用物件は対象外、更新契約も対象外となります。借主が宅地建物取引業者である場合は書面の交付のみでよく、説明は不要です。

ルール違反すると、どうなる?

宅地建物取引業者が東京ルールに違反すると、どうなるのでしょうか。

宅地建物取引業者が本条例第2条に規定する説明の全部または一部をおこなわなかった場合、知事による「指導・勧告」を受ける可能性があります (条例第5条)。

勧告を受けた者が正当な理由なく当該勧告に従わなかったときは、知事は以下の事項を公表できます (条例第6条、施行規則第4条)。

  1. 勧告を受けた者の氏名(法人の場合は商号または名称および代表者の氏名)
  2. 勧告を受けた者の住所(法人の場合は主たる事務所の所在地)
  3. 勧告の内容
  4. 前三号に掲げるもののほか、知事が必要と認める事項

貸主と借主の間でトラブルが発生した場合は、当事者間の話し合いにより解決します。東京都が契約内容について指導したり、当事者の利害を調整したうえで裁定を下したりするようなことはありません。

話し合いにより解決できなかった場合は、民事調停手続や少額訴訟手続などの利用も考えられます。

入居中の設備修繕の一般原則(基本的な考え方)

入居中の設備修繕の一般原則

借主がその住宅を使用し居住していくうえで必要となる修繕は、一般的に貸主がおこなうとされています (施行規則第2条)。

例外は、以下のふたつです。

  • 借主の責任によって必要となった修繕
  • 当事者間の特約がある場合

「借主の責任によって必要となった修繕」とは、借主の故意や過失、通常の使用方法に反する使用などで発生した修繕のことです。

既出のガイドラインを参考に、ふたつほど例をあげてみましょう (ただし、負担区分は一般的な例示であり、損耗等の程度によっては異なる場合あり)。

修繕箇所修繕内容費用負担者
紛失や破損(不適切使用)による取替え借主負担
紛失や破損がない場合の取替え貸主負担
設備日常の不適切な手入れや用法違反による設備の毀損(善管注意義務違反)借主負担
経年劣化による自然損耗、耐用年数到来による破損や使用不能貸主負担

「当事者間の特約」については「小規模の修繕は貸主の修繕義務を免除して、借主が自己負担で修繕できる」とする特約等が考えられます。

ただし、このような特約があっても借主が修繕義務を負うわけではありません。この特約を理由に、借主が入居中におこなわなかった小規模修繕の費用を「原状回復費」として請求することはできません。

借主は、備え付けの機器が故障したとき、勝手に修理をせず貸主や管理会社に連絡を入れるほうがよいでしょう。

家主が修繕義務を怠ると賃料減額!?民法611条改正の影響と対応策

退去時の原状回復の一般原則(基本的な考え方)

退去時の原状回復の一般原則

一般的な賃貸借契約書には、借主が退去する際に原状回復を求める規定があります。この原状回復は「物件を契約締結時と同じ状態に回復せよ」ということではありません。

借主に課される原状回復は、借主の責任(故意や過失、通常の使用方法に反する使用など)によって生じた損耗やキズ等の復旧に限られます。

一方、経年変化や通常の使用による損耗等の復旧は、一般的に貸主がおこなうとされています (施行規則第2条)。こちらも、既出のガイドラインを参考に例をあげてみましょう。

修繕箇所修繕内容費用負担者
クロス(壁紙)喫煙等によるヤニでの変色や臭いの付着(通常の使用による汚損を超える)借主負担
日照など自然現象による変色(通常損耗)貸主負担
クギやネジ等の穴で、下地ボードの張り替えが必要なもの(通常の使用を超える)借主負担
画びょうやピン等の穴で、下地ボードの張り替えが不要なもの(通常損耗)貸主負担
結露を放置したことにより拡大したカビやシミ(通常の使用による汚損を超える)借主負担
日照など自然現象による変色(通常損耗)貸主負担
引っ越し作業等で生じたひっかきキズ(善管注意義務違反・過失)借主負担

原状回復の費用負担も、特約があれば一般原則の限りではありません。ただし、借主に通常の原状回復義務を超えた負担を課す特約は、裁判の結果「無効」と判断されることもあります。

ちなみに、既出のガイドラインによると、借主に特別の負担を課す特約が「有効」と認められるための要件は以下のとおりです。

  • 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • 借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること

東京ルールが施行されたあと、原状回復は貸主負担となるケースが増えました。その意味では、東京ルールの制定は借主の保護と安心感の醸成に寄与したと言えるでしょう。

とは言え、今後借主は何もしなくても守られる、というわけではありません。無用なトラブルを避けたいなら、借主は以下を実施しておくべきでしょう。

入居時 ・部屋や設備を細かく点検
・キズや汚れ等は撮影しておく
居住中 ・契約内容を守る
・部屋を大切に使う
退去時 ・荷物をすべて運び出し念入りに清掃する
・退去時の物件状況確認は必ず立ち合う

借主は、借りた物件に対して善管注意義務民法第400条)を負います。貸主から借りている以上、雑に扱わず、慎重に利用しなくてはなりません。

また、慎重に利用したことを証明するために入居時の点検や写真撮影、退去時の立ち会いをおこなうことが望ましいでしょう。

条例および条例施行規則の改正について

条例および条例施行規則の改正について

東京ルールが一部改正され、令和4年5月18日に施行されています。最後に、この改正に触れて終わりたいと思います。

従来、本条例第2条に規定する説明のための書面は、手渡しまたは郵送で交付されていました。しかし本改正で、借主が希望する場合には電子メールなど電磁的方法での提供が可能になりました。

同じく宅地建物取引業法も改正され、契約書面や重要事項説明書等の電子的方法による提供ができるようになっています。よって、賃貸住宅の全入居手続をオンライン化することも可能です。

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このようなメリットは、借主だけでなく貸主も享受できます。賃貸管理会社さまは、この機会にDX化を進めてみてはいかがでしょうか。

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