「住宅の防災対策・災害対策」と言えば、建物の頑丈さや燃えにくさ、いざというときの備蓄が思い浮かびますよね。台風が激甚化している昨今では、水害の備えも必要でしょうか。
しかし、基準以上の耐震性能や防火性能、災害対策用品を備えただけでは「災害に強いマンション」とは言えません。入居者や地域住民の共助、そして災害後の回復能力も欠かせないのです。
本稿では、賃貸マンションに求められる防災対策や災害対策をご紹介します。賃貸マンションのオーナーさまや管理会社さまの参考になれば幸いです。
目次
災害に強い賃貸マンションとは
自然災害に対する準備は、オーナーの大切な仕事です。日ごろは入居者に安心感を与えられるように、いざというときは入居者の命を守れるように、備えなければなりません。
入居者の防災意識も高まっています。オーナーが防災意識を高くして賃貸経営をおこない安心や安全に努めることは、入居率の向上に寄与するでしょう。
災害に強い賃貸マンションの特長
では、災害に強い賃貸マンションとは、具体的にどのようなマンションなのでしょうか。
それは、ひとことで言うと「レジリエンス性が高いマンション」、すなわち災害に対して「頑丈で、粘り強く、回復力のあるマンション」ではないでしょうか。
レジリエンス性が高いマンションに求められる品質や性能を「平常時・災害時・災害後」に分けてご紹介しましょう。
平常時
住宅は、災害時に人命を守れるものでないといけません。そのためには、建物の耐震性や防火性は現行基準に適応させておく必要があります。命に関わりますので、既存不適格は放置厳禁です。
建物が頑丈だからと言って、安心はできません。主要構造部に被害がないとしても、設備が被害を受け、生活できなくなるケースもあります。設備についても、日ごろから耐震性の確認が必要です。
また、オーナーや管理会社の防災意識の高さ、もしものときの備蓄、コミュニティ力の高さなども平常時から求められます。
災害時
日本では、震度6以上の地震が頻発しています。よって、人が住む住宅には「大地震でも倒壊せず、ちゃんと避難できる安全性」が求められます。
熊本地震は、震度7の地震が連続で発生した結果、被害が拡大しました。ですからマンションには、一度だけではなく、二度三度と大地震に耐えられる耐震性が必要です。
地震と同時に、大規模火災が発生することも考えられます。延焼からマンションを守る防火性能も、備えておく必要があるでしょう。
建築地に合わせた防災対策も、欠かせません。豪雪地帯や台風被害が多い地域、水災が発生し得る地域の建物は、それぞれのリスクに見合った品質と性能が必要です。
災害後
災害に強いマンションには、災害後に自立して生活できる性能が求められます。建物に問題がなくても、生活に必要なものがそろわないと、入居者は避難所生活を余儀なくされるでしょう。
とくに対策しておきたいのは、災害時用の電源と生活用水の備蓄です。
- 災害時用の電源:太陽光発電、蓄電池など
- 生活用水の備蓄:貯水槽・井戸水利用など
マンションで自立生活ができない場合は、一時避難も致し方ありません。念のため、高齢者や幼児連れでも避難しやすいように、手すりや段差を解消しておきたいところです。
一方で、手すりが足場になったとみられる幼児の転落事故が相次いでいます。平常時は、そのようなことが起こらないように注意喚起も必要でしょう。
災害リスクを理解して対策することが大切
災害によって何が起こるのか、マンション特有のリスクを想定しておくことも大切です。
たとえば、地震では上層階のほうがより大きなゆれになります。大きくゆれれば、以下のような共有部分の破損リスクも高まります。
- 給排水設備の破損
- 玄関のドア枠の変形
- 窓ガラスの破損
- 共用廊下やバルコニーの崩落
上述のようなリスクが想定されるなら、設備の破損や通路の崩落を起こさないためにはどうすればいいのか、ドア枠や窓ガラスが破損したときにどう対応するのか、検討が必要でしょう。
少なくとも、定期的な点検と復旧をスムーズにおこなえる体制の構築は必須です。専門家や施工業者を確保しておきましょう。
地震では、停電も起こりえます。停電時は以下のものが作動しなくなり、復旧に時間がかかると防犯や日常生活に支障を来す恐れがあります。対策が必要でしょう。
- オートロック:開閉ができなくなる
- エレベーター:利用できなくなる
- 給水用電動ポンプ:マンション内だけ断水してしまう
マンションは、大型の台風によって以下のことが起こる可能性もあります。
- 低層階の住戸の浸水
- 地下の機械室や駐車場が水没
- 強風や飛来物による窓ガラスの破損
このような事態に対応するため、平常時から準備できることを整えておく姿勢が大切です。
たとえば、災害対応マニュアルや居住者名簿を作成して災害時の初動・安否確認体制を確立しておくと、いざというとき慌てなくて済むでしょう。
防災訓練を企画・運営したり、防災用品を購入して使い方を告知したりすると、入居者の防災意識の向上も期待できます。
建物や設備の破損に備えて、復旧できる業者リストを作成しておくのもよいでしょう。
入居者や地域住民が互いに助け合える
マンションの防災能力を高める際は、レジリエンス性を向上させるだけでは足りません。災害発生時は「自助・共助・公助」が大切で、賃貸マンションでは「共助」がおろそかになりがちです。
大きな災害が発生すると、オーナーや管理会社がマンションに駆けつけられないこともあり得ます。そのような可能性も考慮すると、日ごろから以下の関係性を構築しておくことが共助につながります。
- オーナーや管理会社と入居者の関係性
- 入居者同士の関係性
- 入居者と地域住民との関係性
災害が発生した際は、人と人との助け合いが大きな力を発揮します。コミュニティ強化を図り、いざというとき住民同士の助け合いができるように手を打っておきましょう。
たとえば、オーナーから入居者に定期的に防災情報を発信したり、防災訓練や避難訓練を実施したりするとよいでしょう。災害時に落ち着いて行動できるだけでなく、オーナーと入居者の距離が近くなります。
マンションオーナーが備えておきたい防災対策・災害対策
つづいて、賃貸マンションのオーナーが備えておきたい防災対策・災害対策をご紹介します。
建物の性能不足を改修で補う
メンテナンスを怠っていて災害による被害が発生した場合、オーナーは損害賠償請求を受ける可能性があります。
そのような事態にならないように、建物の性能不足を改修で補っておきましょう。必要に応じて、修繕計画も見直しておきましょう。
メンテナンスのポイントをご紹介します。
耐震性能不足を放置しない
旧耐震基準で建てられたマンションは、耐震診断を実施しましょう。診断で耐震性が不足していると分かった場合は、耐震改修工事をおこなう必要があります。
「旧耐震基準」とは、1981年(昭和56年)5月以前の耐震基準のことです。この時期以前に建築確認を受けたマンションは、管理会社や自治体の窓口にご相談ください。
高架水槽などの設備も、最新の耐震基準を満たしているか確認しましょう。建物や設備の改修や採用する工法は、専門家から助言を受けてください。
擁壁や外構のブロック塀も、確認することをおすすめします。崩落や倒壊でケガ人が出る恐れや、避難経路が妨げられ二次被害につながる恐れがあります。
倒壊しないだけでなく、燃えにくいことも重要
震災が、大規模火災につながることも考えられます。ですから、避難路沿いに建つ賃貸マンションには、火災の延焼をくい止める防火性能が求められます。
木造住宅密集地帯に建つ老朽化した木造アパートも、倒壊や火災の危険性があります。被害を最小限に抑えるために、建て替えなどの対策が急がれています。
住宅の不燃化促進を「重要課題」と位置づけている自治体が多数あります。助成制度等を設けているケースもありますので、所有物件の防火性能向上をご検討中の方は自治体にご確認ください。
老朽化している設備は更新しておく
設備が老朽化している場合は、災害時に問題にならないようにメンテナンスしておきましょう。とくに避難に関わる設備は、重点的に確認しておくことが望ましいです。
- 階段:手すりを取り付ける、サビや腐朽等の異常がないか確認
- 避難ハッチ:鉄製ならステンレス製のものに交換
- エレベーター:後付けの装置で、地震発生時の閉じ込めを防ぐ
消化器の使用期限にも、注意が必要です。昨今、豪雨が激甚化していますので、水災が想定される地域では浸水防止設備の設置も検討しておかれるとよいでしょう。
食料や飲み水、防災グッズを準備・備蓄しておく
防災用の食料やグッズの準備は、入居者にお願いするものと、オーナー側が実施するもので分かれます。入居者に準備をお願いしたいものは、リストにしてお知らせしておきましょう。
準備・備蓄しておきたい代表的なものをご紹介します。
食料や飲み水
食料や飲み水の備蓄は、入居者にお願いするケースが多いでしょう。水や保存食といえども消費期限がありますので、入居者にローリングストック法をおすすめしていただくとよいでしょう。
ローリングストック法では、普段から食べたり飲んだりしているものを多めにストックしておき、減った分を随時補充します。
災害対策用品
災害対策用品は、オーナーと入居者、双方準備が必要です。入居者に準備をお願いしたいものは、リストにしてお知らせしておくとよいでしょう。
主な災害対策用品をご紹介しましょう。
災害対応 | パソコン、モバイルルーター、ラジオ、ハンドマイク、文具、投光器、ポータブル蓄電池など |
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救出活動 | ヘルメット、軍手、懐中電灯、トランシーバー、救助工具セット、油圧ジャッキなど |
応急救護 | 医薬品、包帯、タオル、担架、マスク、ウェットティッシュ、ビニール手袋など |
住民支援 | 水、食料、災害用トイレ、毛布、暖房器具、ポリタンク、リヤカー、ランタンなど |
なお、一般的に「防災グッズ」として販売されているものは、購入して備え付けた時点で経費として成立します。災害時用の非常食も、購入して備蓄した時点で経費として処理できます。
詳しくは、税の専門家にお尋ねください。
保険
防災グッズではありませんが、災害時に備えて保険を見直しておくことも大切です。過不足なく補償を受けられるように、保険内容を整えておきましょう。
とくに注意したいのは「地震保険、水災補償、家賃補償、施設賠償責任の特約」などです。地震の場合は免責になるものもありますので、今一度契約内容をご確認ください。
防災マニュアルを整備しておく
防災マニュアルの整備も重要ですので、ポイントをご紹介しておきましょう。
マンションや地域の特性に合わせた内容を盛り込む
簡単に手に入る汎用的なマニュアルは便利ですが、一般的な内容しか書かれていないでしょう。マンションや地域の特性に合わせた独自の内容を加筆して、役立つマニュアルに改訂しておきましょう。
その際、写真や図を用いて誰でも分かりやすくしておくと、いざというとき便利です。防災マニュアルに盛り込んでおきたい内容をご紹介しましょう。
- 災害時の役割分担
- 緊急時の連絡先
- 初動対応フロー
- 入居者の安否確認フロー
- 建物の安全確認フロー
- 災害対策用品の利用ルール
- エレベーターの利用ルール
- 各住戸での排水のルール
- ゴミ出しルール
- 防犯パトロールについて
大地震の後に避難するとき、エレベーターを使用してはいけません。排水も注意しておかないと、配管が破損している場合は汚水がマンション内にあふれてしまいます。
ゴミ出しも、自治体等の回収が滞る可能性がありますので、マンション全体で保管のルールを決めておくと安心です。
また、災害で多くの住民が避難する場合、残念ながら窃盗や空き巣が多発する傾向があります。防犯パトロールについても、明文化しておくほうがよいでしょう。
参考:警察庁「大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~」
各世帯で実施して欲しい防災対策も明文化する
先述のとおり、入居者に災害対策用品の備蓄を促す場合、リスト化して周知することが大切です。あわせて、以下のこともお知らせしておくと、被害の軽減に役立ちます。
- 室内の地震対策
- バルコニーの安全対策
- 火災が起きたときの対処方法
室内の地震対策は、まず寝室から。家具の配置に気を配り、転倒しないように固定してもらいましょう。倒れてケガしたり、逃げ道をふさいだりしないように留意したいところです。
バルコニーは共用部分であり、災害時は入居者の避難経路として使用します。蹴破り戸や避難ハッチ付近はものを置かないように、注意を促しましょう。
火災が起きたときの初期消火活動も、実施方法を明文化しておくとよいでしょう。消火器や屋内消火栓の場所と使い方、初期消火を放棄してでも避難すべきタイミングなど、盛り込んでおきましょう。
マニュアルの情報量が多くなると、読まない人が多くなるうえ、いざというとき必要な情報を探すのに手間取ります。オンライン化するなど、見やすくて探しやすいマニュアルになるように工夫しましょう。
自治体のSNSやホームページを確認する
多くの自治体は、積極的に防災に関する情報を発信しています。たとえば以下のような情報が自治体のホームページに掲載されていますので、ぜひ一度ご覧ください。
- 防災ガイドライン
- ハザードマップ
- 避難場所
- 緊急医療救護所
- 災害時給水ステーション
災害時は、自治体のSNSからの情報発信もキャッチしたいところです。可能であれば、平常時からフォローしておきましょう。
【まとめ】賃貸マンションの防災対策・災害対策
賃貸マンションの防災対策は、平常時・災害時・災害後に分けて考える必要があります。平常時や災害時は人命を守れるように、災害後は自立した生活が送れるように準備しておくとよいでしょう。
災害でマンションが被害を受けた場合、復旧活動が必要になります。復旧には専門的知識が求められるため、建築士や管理会社などの専門家にも参加してもらい、検討を進めましょう。
とは言え、災害が起こってから専門家や施工業者を探してもすぐに確保できません。日ごろから、連絡しやすい専門家や施工業者をつくっておくことが大切です。
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