なぜ、賃貸マンションに長期修繕計画が必要なのか

長期修繕計画を作成している賃貸マンションのオーナーがどれくらいおられるか、ご存知でしょうか。2017年に報告書がまとめられた国交省の調査によると、じつは23%程度の方しか作成しておられません。

多くのオーナーは、とくに修繕資金の積み立てもせず、不具合を見つけたときに都度修繕されているようです。しかし実際のところ、計画や積立がない状況を「よくない」と感じているオーナーは、意外と多いのではないでしょうか。

参考:民間賃貸住宅の大規模修繕等に対する意識の向上に関する調査検討報告書(2017年3月)

事業として賃貸業を営むうえで、将来の修繕にどのくらいの費用がかかるか知りたいと思うのは当然のことでしょう。適当な積み立て手段があるなら積み立てたいし、修繕計画について客観的なアドバイスがもらえるなら聞いてみたいと感じるのが自然です。

このような状況下では、管理会社の役割が重大です。客観的な判断材料を提供して、オーナーに長期修繕計画や積立の必要性を説いていかねばなりません。

「脱炭素」が叫ばれる中、住宅の長寿命化の観点からも、積極的な働きかけが求められています。

目次

賃貸マンションが長期修繕計画を立てるメリット

賃貸マンションが長期修繕計画を立てるメリット

そもそも賃貸物件のオーナーにとって、長期修繕計画を作成すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。この「メリット」こそ「なぜ、賃貸マンションに長期修繕計画が必要なのか」という問いの答えです。

3つご紹介したいと思います。

  • 入居率の向上(空室率の低減)に役立つ
  • 修繕積立金不足を回避
  • 建物の劣化や老朽化を遅らせる

順番に、詳しく解説していきましょう。

入居率の向上(空室率の低減)に役立つ

修繕の機能は、不具合の改善だけではありません。建物の美観維持も大事な機能のひとつであり、美観が保たれることで、競争力の維持や高い入居率の確保ができるのです。

今はインターネットでなんでも調べる時代ですから、不動産ポータルサイトに載る外観写真の印象が内見数を左右します。いざ内見に来られた方にとって、共有部分の第一印象も、住みたいと思うかどうかの重要な決定要因になるでしょう。

たとえば以下の箇所は、管理状況からオーナーの物件への思い入れが感じ取れます。それは賃借人も心得ていますので、よく観察されていると考えたほうがいいでしょう。

  • 外観
  • エントランス
  • 廊下や照明
  • ポスト
  • 植栽の手入れ

これらの美観を維持するためには、場当たり的な修繕ではなく、計画的なメンテナンスが必要です。まさしく長期修繕計画が活きるところでしょう。

修繕積立金不足を回避

一戸建て住宅では、長期優良住宅の所有者以外は、多くの方が修繕計画を立てていません。必然的に、計画的な修繕積立ができている方も多くありません。

ですから、耐震や屋根の葺き替え、バリアフリー化など、大規模改修が必要になったときに成り行きで資金を準備するケースが大半です。その結果、必要な工事ができない、あるいは求める質の工事ができないといったことが起こっています。

いっぽう、賃貸マンションでも同じことが起こりえます。それどころか、入居者とトラブルになる可能性を考慮すると、プライベート住宅より大問題になることも考えられます。「資金不足で思いどおりの工事ができなかった」では済まないのです。

賃貸マンションにとって、修繕積立は賃貸事業の原資のひとつです。積立金不足を回避するためには、積立計画のもとになる長期修繕計画の作成が欠かせません。

建物の劣化や老朽化を遅らせる

計画的にメンテナンスされている建物は、そうでない建物より劣化や老朽化が遅くなります。長期にわたり住宅の性能が維持できるので、家賃水準も維持できて、修繕資金の確保が容易になる好循環が生まれます。

いっぽうメンテナンスされていない建物は、外観や内装・設備等が劣化して、近隣の賃貸物件に比べて競争力が低下します。その結果、家賃や担保価値が下がったことで修繕費の確保が困難になり、いっそうの老朽化と競争力の低下を招く悪循環におちいります。

建物の劣化や老朽化を少しでも遅らせたいのであれば、長期修繕計画と修繕資金の積み立てが不可欠です。メンテナンスで物件の寿命を延ばすことができれば、建て替える場合より高い利益が見込めるでしょう。

定期メンテナンスや大規模修繕の周期と費用の目安

定期メンテナンスや大規模修繕の周期と費用の目安

修繕やメンテナンスの周期費用の目安が分かれば、いつごろまでにいくら積み立てておけばよいか分かります。順番にご説明しましょう。

周期の目安

賃貸マンションの修繕周期は、設備や構造によって変わります。実際には建物のコンディションを診断していただき修繕時期を決定する必要がありますが、ここでは目安をご紹介します。

5~10年給排水管の高圧洗浄、防蟻処理(木造)、鉄部塗装など
11~15年給湯器交換、エアコン交換、玄関ドアやサッシの調整、水まわり設備など
16~20年外壁塗装、外壁タイル補修、屋根塗装、陸屋根の防水処理、雨樋塗装など
21~25年屋根葺替など
26~30年給排水管取替、貯水槽更新、エレベーター更新など

修繕時期を判断するための診断は、法定点検以外にもこまめにおこなっていただくほうが良いでしょう。早期の不具合を発見できれば、部分的な修繕で済むケースが多く、費用負担の軽減につながります。

費用の目安

つづいて、費用の目安をご紹介します。こちらも個別の物件によって具体的な金額が異なりますが、目安をご紹介します。

5~10年1戸あたり5~10万円
11~15年1戸あたり45~65万円
16~20年1戸あたり15~25万円
21~25年1戸あたり80~120万円
26~30年1戸あたり15~25万

具体的な金額は劣化診断や見積もりを実施して決定しますが、30年でおおむね「1戸あたり160~245万円」程度の費用がかかります。とくに10年目や20年目の節目には大きな費用がかかりますので、積立があると安心です。

長期修繕計画の作成と修繕資金積み立てのすすめ

本稿では長期修繕計画のメリットを3つご紹介しました。このような情報は、賃貸マンションのオーナーにとって「頭では分かっていること」ではないでしょうか。

しかし、本当に定期修繕が競争力の維持につながるのか不透明で、ズルズルと先延ばしにしているうちに家賃や担保価値を低下させてしまった……という方が少なくないと思われます。ですから管理会社に、成功事例等の客観的情報をもとにしたアドバイスが求められているのです。

私たち「家町装飾」では建物診断から修繕計画作成代行まで、安心のサポート体制を構築しております。「客観的データをそろえたり検討したりする時間が取れない」と感じている管理会社様は、お気軽にご相談ください。