アスベストの事前調査と結果報告が義務化されました。しかし、まだ「ちゃんと理解できていない。具体的に何をどうすればいいの?」と不安な気持ちの方が少なくないでしょう。
その悩みは、正確な情報を得て理解を深めることで解消できます。調査や報告を怠ると責任問題に発展しかねませんので、手順を理解して適切に実施しましょう。
本稿では、アスベストの事前調査と結果報告について詳しく解説します。あなたも、本稿をご覧いただき、アスベスト事前調査と結果報告についての理解を深めてみませんか?
目次
アスベスト(石綿)事前調査とは
解体工事や改修(改造・補修)工事を実施する際、元請業者または自主施行者は、工事前にアスベスト含有建材の有無を調査する義務があります。
また、一定規模以上の建築物においては、事前調査のあと調査結果を報告することも義務づけられています。それぞれ、詳しく説明していきましょう。
なお、本稿では主に建築物に関する情報を掲載しています。工作物や船舶などに関する情報は記載していませんので、ご了承のうえご覧ください。
事前調査の概要
まずは、事前調査から解説しましょう。
▼背景
アスベストは、2006年9月から輸入・製造・使用などが禁止されています。よって、それより以前に着工した建築物や工作物は、アスベスト含有建材を使用している可能性があります。
アスベスト含有建材を使用した建築物をむやみに解体・改修すると、アスベストを飛散させかねません。万が一、飛散した粉じんを吸い込むと、肺がんや中皮腫を発症するおそれがあります。
ですから、2006年9月以前に建てた建築物を解体・改修する際は、適切な対策を実施する必要があります。
アスベストについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
▼調査対象と調査方法
解体・改修工事をおこなう際、石綿障害予防規則(略称:石綿則)および大気汚染防止法(略称:大防法)にもとづき、アスベスト含有建材の有無を確認する事前調査が必要です。
関連条項を記載しておきますので、ご興味がある方はご覧ください。
事業者は、建築物、工作物又は船舶(鋼製の船舶に限る。以下同じ。)の解体又は改修(封じ込め又は囲い込みを含む。)の作業(以下「解体等の作業」という。)を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、当該建築物、工作物又は船舶(それぞれ解体等の作業に係る部分に限る。以下「解体等対象建築物等」という。)について、石綿等の使用の有無を調査しなければならない。
建築物等を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事(以下「解体等工事」という。)の元請業者(発注者(解体等工事の注文者で、他の者から請け負つた解体等工事の注文者以外のものをいう。以下同じ。)から直接解体等工事を請け負つた者をいう。以下同じ。)は、当該解体等工事が特定工事に該当するか否かについて、設計図書その他の書面による調査、特定建築材料の有無の目視による調査その他の環境省令で定める方法による調査を行うとともに、環境省令で定めるところにより、当該解体等工事の発注者に対し、次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない。
調査の対象は、以下のとおりです。
- すべての建築物の解体・改修工事が対象
- 解体・改修作業にかかわる部分のすべての材料が対象
- 対象となる建築物の建築時期や規模、用途にかかわらない
ただし、調査を省略できる条件がいくつかありますので、後述します。
調査の際、以下の両方をおこなう必要があります (石綿則 第3条2項)。
- 設計図書等の書面による調査
- 目視による調査
調査結果は、記録を作成して3年間保存することが義務づけられています (石綿則 第3条5項)。
また、記録の写しを作業場所に備え付け、概要を見やすい箇所に掲示する必要があります (石綿則 第3条6項)。
▼調査資格
2023年10月から、アスベストの事前調査は厚生労働大臣が定める以下の者がおこなう必要があります。
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等石綿含有建材調査者
- 2023年9月までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者
なお「一戸建て等石綿含有建材調査者」が調査できるのは「一戸建て住宅」と「共同住宅の住戸の内部」に限られます。
「2023年9月までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者」は、事前調査をおこなう時点においても引き続き同協会に登録されている者に限られます。
▼調査不要と判断できる条件
以下の作業は石綿の飛散リスクがない、または極めて小さいため、調査不要と判断してよいことになっています。
- 石綿が含まれていないことが明らかなもの(木材・金属・石・ガラス・畳・電球など)の工事で、除去または取り外し時に周囲の材料を損傷させるおそれのない作業
- 材料に、石綿が飛散する可能性がほとんどないと考えられる極めて軽微な損傷しか及ぼさない作業(釘を打って固定する、または刺さっている釘を抜く等)
- 現存する材料等の除去はおこなわず、新たな材料を追加するのみの作業(既存の塗装の上に新たに塗装を塗る作業等)
- 国土交通省・経済産業省・農林水産省による用途や仕様の確認、調査結果から石綿が使用されていないことが確認された工作物の解体・改修の作業
上述の作業は、大気汚染防止法上の「解体等工事」に該当しません。
ちなみに、電動工具等を用いてアスベストが使用されている可能性がある建材に穴を開ける作業は「軽微な損傷しか及ぼさない作業」に該当しません。事前調査をおこなう必要があります。
事前調査の手順
つづいて、事前調査の流れをご説明します。
事前調査は「書面調査 ⇒ 目視調査 ⇒ 分析調査」の順でおこないます。先述のとおり、書面調査と目視調査は一部の作業を除いて省略できません。
それぞれの調査と、調査後に必要なことについて解説しましょう。
▼書面調査
最初におこなうのは、書面調査です。
書面調査では、設計図書や仕様書などから使用されている建材の種類や製造年などを確認します。ただし、設計図書等の文書がない場合は、この限りではありません。
「アスベストは使用されていない」と判断できる条件は以下のとおりです。
- 製品を特定して、その製品のメーカーによる証明や成分情報などと照合する
- その製造年月が平成18年9月1日以降であることを確認する
繰り返しになりますが、一部の作業を除いて、原則的に書面調査と目視調査は省略できません。
ただし、例外として、以下の建築物は書面調査のみで差し支えないとされています。
建築物の条件 | 確認書類 |
---|---|
すでに改正後の石綿則で求める事前調査に相当する調査が実施されている建築物 | 当該相当する調査の結果の記録を確認 |
平成18年9月1日以降に着工した建築物 | 当該着工日等を設計図書等で確認 |
▼目視調査
目視調査では、現地で設計図書等と照らし合わせ、異なる点や疑わしい建材などがないか確認します。単に目で見て判断するのではなく、現地で部材と書面情報を照合することが大切です。
なお、目視ができない部分は、目視が可能となった時点で調査します。
▼分析調査
書面および目視調査でアスベストの使用の有無が明らかにならなかった建材がある場合は、分析による調査の実施が義務づけられています (石綿則 第3条4項)。
ただし、アスベストが使用されているものとみなして「ばく露防止措置」を講ずるならば、分析調査を省略してよいことになっています。
分析調査は、調査を実施することができる資格者に依頼する必要があります。資格者の例をあげておきましょう。
- 厚生労働大臣が定める分析調査者講習を受講し、修了考査に合格した者
- 公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する「石綿分析技術の評価事業」により認定されるAランク、もしくはBランクの認定分析技術者、または定性分析に係る合格者
- 一般社団法人日本環境測定分析協会が実施する「アスベスト偏光顕微鏡実技研修 (建材定性分析エキスパートコース)」の修了者
- 一般社団法人日本環境測定分析協会に登録されている「建材中のアスベスト定性分析技能試験(技術者対象)合格者」
- 一般社団法人日本環境測定分析協会が実施する「アスベスト分析法委員会認定」のJEMCAインストラクター
- 一般社団法人日本繊維状物質研究協会が実施する「石綿の分析精度確保に係るクロスチェック事業」により認定される「建築物および工作物等の建材中の石綿含有の有無および程度を判定する分析技術」の合格者
参考:改正石綿障害予防規則リーフレット(解体・改修工事の受注者・実施者向け)
▼事前調査後
調査後は、アスベスト含有建材の有無にかかわらず、以下を実施する必要があります。
- 調査結果を発注者に説明して、書面を交付
- 調査記録の作成と保存(工事終了後3年間)
- 調査結果の現場備え付け
- 調査結果の概要の現場掲示
調査記録には、以下の項目を記録する必要があります。
- 事業者の名称・住所・電話番号
- 現場の住所
- 工事の名称・概要
- 工事対象の建築物の着工日
- 工事対象の建築物の構造
- 事前調査の終了年月日
- 事前調査の実施部分
- 事前調査の調査方法
- 事前調査の調査結果(石綿の使用の有無とその判断根拠)
先述のとおり、調査記録は3年間保存することが義務づけられています (石綿則 第3条5項)。
また、調査結果の写しを現場に備え付け、以下の概要を見やすい箇所に掲示する必要があります (石綿則 第3条6項)。
- 事前調査の終了年月日
- 事前調査の実施部分
- 材料ごとの石綿等の使用の有無
- アスベストが使用されていないと判断した材料は、その判断の根拠
工事発注者の義務
工事発注者の義務も、確認しておきましょう。
解体・改修工事を発注する場合、発注者は解体・改修工事をおこなう施工業者に対して次のような配慮をおこなう義務があります。
- アスベストの使用状況等(設計図書など)を施工業者に通知するよう努める
- 事前調査の記録が適切に実施されるよう、写真の撮影を許可する等の配慮をおこなう
- 調査に要する費用を適正に負担する
- 当該調査に関し必要な措置を講ずることにより、当該調査に協力する
また、アスベストの使用が明らかとなった場合は、除去等の工事に必要な費用・工期・作業の方法などの発注条件について、施工業者が法令を遵守して工事ができるよう配慮する必要があります。
参考:石綿障害予防規則 第8条
参考:大気汚染防止法 第18条の15 2項
参考:大気汚染防止法 第18条の16
先述のとおり、解体・改修工事の施工業者にはアスベストの事前調査の実施が義務づけられています。よって、発注者にも以下の作業が求められます。
- 見積書に、アスベストの事前調査費用が計上されていることを確認
- 調査者が資格(建築物石綿含有建材調査者など)を有しているか確認
- アスベスト事前調査結果報告書の提出を求める
- 労働基準監督署に提出した計画届の写しを求める
また、アスベストを含有する吹付け材や保温材等の使用が明らかになった場合は、建築物の解体・改修工事をおこなう際に、自治体へ「特定粉じん排出等作業実施届出書」を提出する必要があります。
参考:東京都環境局《大気汚染防止法・環境確保条例》特定粉じん排出等作業(アスベスト)に係る届出等
解体・改修工事後は、施工業者に「アスベスト飛散防止措置が適切にとられたことを示す作業の実施状況の記録 (写真を含む)」の提出を求めましょう。
アスベスト(石綿)事前調査結果報告とは
つづいて、アスベスト事前調査結果報告の概要と手順について解説します。
事前調査結果報告の概要
一定規模以上の解体・改修工事を実施する場合、アスベスト含有建材の有無にかかわらず、事前調査の結果を労働基準監督署に報告する義務があります。
報告が必要な工事の条件は、以下のとおりです。
建築物の解体工事 | 解体作業対象の床面積が合計80m²以上。解体工事とは、建築物の壁・柱・床を同時に撤去する工事のこと。 |
---|---|
建築物の改修工事 | 請負代金の合計額が税込100万円以上。改修工事とは、建築物に現存する材料に何らかの変更を加える工事で、解体工事以外のもの。 |
事前調査の報告義務者は、元請業者です。元請事業者が協力会社に関する内容も含めて、報告する必要があります (石綿則 第4条の2 5項)。
報告先は、以下のとおりです。
- 所轄労働基準監督署長(参考:石綿則 第4条の2 1項)
- 都道府県知事(参考:大防法 第18条の15 6項)
事前報告は、原則としてオンラインで申請・手続をおこないます (スマホでもアクセス可)。
オンラインで申請・手続すれは、1回の操作で労働基準監督署と地方公共団体の両方に報告することができます。
なお、報告を怠ったり虚偽の報告をしたりすると「30万円以下の罰金」が課されます。
結果報告の手順
オンラインの電子システムを使った結果報告は、2ステップで申請・手続ができます。
まず、初めて利用する場合は、認証システム(GビズID)により事前にアカウントを作成する必要があります。アカウントを作成したら、次にログインして、申請情報の新規登録をおこないます。
なお、報告が必要な内容は、以下のとおりです。
- 事業者の名称・住所・電話番号・労働保険番号
- 現場の住所
- 工事の名称と概要
- 工事対象の建築物の着工日
- 事前調査の終了年月日
- 解体工事または改修工事の実施期間
- 床面積(解体工事の場合)
- 請負金額(改修工事の場合)
- 工事対象の建築物の構造
- 事前調査の調査結果(石綿の使用の有無とその判断根拠)
- 石綿作業主任者の氏名
- 作業の種類、切断等の作業の有無、作業時の措置
調査や報告を怠ると責任問題に発展しかねませんので、手順を理解して適切に実施しましょう。
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