空き家率は上昇傾向にあるものの、直近の10年間は横ばいが続いています。思っていたより深刻な事態になっていないのは、国や自治体、民間業者の空き家施策が奏功しているからでしょう。
とは言え、今後は大量に相続不動産が出てきます。空き家に対する包囲網を緩めるわけにはいかないのが実情であり、空き家を減らす施策が打たれ続けるのではないでしょうか。
空き家施策は、ペナルティ型だけでなく早期の活用や売却に対するインセンティブ型もあります。インセンティブ型は期限を切るのが一般的ですので、空き家の活用を急ぐ方も出てくるでしょう。
本稿では、空き家を活用する際によく検討される「リノベーション」のメリットとデメリットをご紹介します。空き家の活用をご検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
空き家を放置するのが難しくなりつつある
近年の空き家率は横ばいですが、何も手を打たなければ上昇していくでしょう。空き家を放置すれば以下のような問題につながりますので、利活用が喫緊の課題であることには変わりません。
- ゴミ等を不法投棄される
- 火災の発生源になる
- 倒壊する危険性が増す
- 風景や景観の悪化
- 雑草・悪臭等による衛生環境の悪化
- 不法侵入等による治安の悪化
活用されていない空き家に対する包囲網が狭められつつあることは、周知の事実でしょう。その代表が、平成27年に施行された「空家法 (空家等対策の推進に関する特別措置法)」です。
この法令が制定されたことで、空き家に対して「住宅用地の特例」措置の解除や行政代執行・略式代執行ができるようになりました。解体された事例も、枚挙にいとまがありません。
新聞各社が掲載しているものを、いくつかご紹介しましょう。
- 空き家解体、行政代執行 費用700万円は所有者に 栃木・足利
- 行政代執行で初の解体 東区で広島市、倒壊の恐れある空き家
- 危険な空き家、解体撤去へ代執行開始 房総半島台風で倒壊 市原市、特措法基づき初
- 危険な空き家、行政代執行で解体 能代市
空家法では、適正な管理がされていない空き家の所有者に対して、自治体が段階的に「助言・指導、勧告、命令、行政代執行・略式代執行」をおこなえます。
そして、法律の施行から令和2年度末までに、空家法に基づく除却等(除却、修繕、繁茂した樹木の伐採、改修による利活用、その他適切な管理)は以下のとおり執行されています。
空家法の措置により除却等がなされた管理不全空き家(特定空家等を含む) | 15,161件 |
市区町村による空き家対策の取組により除却等がなされた管理不全空き家 | 97,274件 |
参考:国土交通省「空き家対策に取り組む市区町村の状況について (令和3年3月31日時点調査)」
また、京都市のように空き家に対する課税の強化を検討する自治体も出てきました。京都市の場合は、令和8年に課税開始予定で、空き家や別荘への課税が1.5倍程度になる見込みです。
このような施策が一定の効果を発揮すれば、全国に広まっていくでしょう。
参考:京都市「非居住住宅利活用促進税の導入に向けた取組について」
空き家に対する施策は、ペナルティ型だけではありません。「空き家等の譲渡所得の3,000万円控除」のようなインセンティブ型もあります。
この控除は適用期限が迫っていて、2023年12月31日までとなっています。期限が近づけば「この機会に」と駆け込みで空き家の売却を急ぐ方が増えそうです。
このようなインセンティブ型の空き家施策は、これからも期限を切って実施されるでしょう。空き家の所有者にとっては、期限付きの施策が活用を急ぐ動機になり得ます。
ちなみに、空き家の活用方法は大別すると以下の4つに集約できます。
- 住む
- 貸す
- 売る
- 営む
このような活用をする際、一旦更地にするケース以外は、ほとんどの方がリノベーションを検討されるでしょう。
空き家をリノベーションで活用するメリット
さて、本題です。空き家にリノベーションを実施するメリットとデメリットをご紹介したいと思います。
まずは、メリットから3つご紹介しましょう。
- 売却しやすくなる
- 貸し出せるようになる
- 空き家のリスクを軽減できる
順番に詳しく解説します。
売却しやすくなる
一般の方が最初に考える空き家の活用方法と言えば「売却」でしょう。リノベーションをうまく活用することで「早期売却」や「高額売却」ができないか、検討される方が少なくありません。
日本人は新築のこだわりが強いですが、中古住宅も徐々に受け入れられ、マーケットが大きくなっています。ビンテージマンションの中には、高いリセールバリューを維持し続けている物件もあります。
築年数がたっている物件であっても、状態がよければ設備や内装、間取りに手を加えることで買い手が付きやすくなります。資産価値の向上により、売却額アップも期待できるでしょう。
貸し出せるようになる
老朽化が激しい空き家は住みづらく、借り手がつきません。手入れすることで借り手がつきやすくなり、人が住むことで老朽化の対策にもなります。
なお、戸建ての不動産投資は一棟アパートや区分所有マンションと比較すると以下の傾向があります。
- 利回りが比較的高い
- 入居期間が長くなる
- 管理の自由度が高い
出口戦略も、以下のようなさまざまなものが描けるでしょう。
- 建て直して貸し出す
- 更地にして売却
- 更地にして自身の居住用に転用
また、部屋が広く敷地に駐車場がある点も優位に働きます。ノウハウも、書籍やインターネットから豊富に得られます。
空き家をリノベーションして、戸建て賃貸の大家に挑戦してみるのもよいでしょう。
空き家のリスクを軽減できる
空き家を所有している方は「ご近所に迷惑がかかっているのでは?」「老朽化が進むのでは?」「特定空き家に指定されるのでは?」と心配されていると思います。
リノベーションした空き家をちゃんと活用することで、このような心配を軽減できます。順番に、詳しく解説していきましょう。
ご近所に迷惑がかかるリスクを軽減
「割れ窓理論」をご存じの方は、少なくないでしょう。空き家で発生する軽微な「不法投棄、落書き、害虫・害獣の発生」を放置すると、それが重大な犯罪の萌芽となり得るのです。
とは言え、空き家の管理を不動産管理会社に委託すれば、コストがかかります。ちゃんと活用することが、犯罪防止と管理費削減につながります。
修繕や改修の費用がふくらむリスクを軽減
築年数は、老朽化の目安にしかなりません。きちんとメンテナンスされている物件が築後30~40年たっていても問題なく住めます。一方、管理が粗悪な物件は20年程度で激しく老朽化してしまいます。
人が住まなくなった空き家も、老朽化が進行しやすくなります。いざ活用しようと思ったとき、予想以上に修繕費が高いことがわかり躊躇する方が少なくありません。
放置すれば、固定資産税がかかるばかりです。解体費用も年々高くなっています。活用するのであれば、早めにしっかり修繕や改修をおこない、手を打ったほうがよいでしょう。
特定空家等に指定されるリスクを軽減
先述のとおり「空家法 (空家等対策の推進に関する特別措置法)」が施行されました。現在、空き家の適正管理をしない所有者に対しては、市町村が状況の改善を行政指導できます。
行政指導で注意が必要なのは、「住宅用地の特例」措置の解除と行政代執行でしょう。前者は固定資産税の大幅増となり、後者は行政による解体もあり得る厳しい処分です。
とは言え、すべての空き家がペナルティを受けるわけではありません。適正管理ができていない物件に対して、法律にもとづき以下の段階を経て指導されます。
- 助言・指導(空家法14条1項)
- 勧告(空家法14条2項)
- 命令(空家法14条3項)
「住宅用地の特例」措置の解除の対象となるのは「助言・指導、勧告」の措置を経て賦課期日(1月1日)時点で引き続き勧告を受けている特定空家等です。
「行政代執行」の対象となるのは、以下に当てはまるときです (参考:空家法14条9項)。
- 命令を履行しないとき
- 履行しても十分でないとき
- 履行しても期限までに完了する見込みがないとき
少なくとも「助言・指導」の段階で適切な処置をおこなえば、大事にはならないでしょう。
とは言え「助言・指導」も受けないように、日頃からちゃんと利活用しておくほうが望ましいのは、言うまでもありません。「住む・貸す・売る・営む」と、それに必要なリノベーションをご検討ください。
空き家をリノベーションで活用するデメリット
つづいて、リノベーションのデメリットを3つご紹介します。
- 費用がかかる
- 施工管理が面倒
- 自分でリフォームしたい買主もいる
順番に詳しく解説していきましょう。
費用がかかる
空き家のまま長年経過した物件は、修繕だけで済まずフルリノベーション規模の改修が必要になることが少なくありません。中には、1,000万円以上かかるケースもあります。
とくに、1981年以前に建築された住宅は耐震補強が必要で、新耐震基準の建物と比べると「50~300万円」程度工事費が高額になる傾向があります。
大規模改修は、費用対効果の見極めが難しいでしょう。空き家をどのように活用するのか明確にしたうえで、コストパフォーマンスのいいリフォームをおこなう必要があります。
活用できる既存部分を残しながら、変えるところは大胆に新しくする ―― そんな提案をしてくれる施工会社に依頼できると、心強く感じるでしょう。
改修が必須となる箇所を特定するなら、ホームインスペクションも有用です。診断結果をもとに、工事内容を決める際の参考にしていただくとよいでしょう。
施工管理が面倒
意外と見落としがちなのが「施工管理の手間」です。事前の打ち合わせや工事期間中に、施工業者とやり取りしなくてはなりません。
この手間を減らすには「どこの施工業者に依頼するか?」がとても重要です。提案力や施工精度、コミュニケーション能力のない業者に依頼すると、トラブルが多くなり管理の手間が増えます。
施工業者は、以下の点に留意して選定していただくとよいでしょう。
- 親身になって相談に乗ってくれるか
- たくさんの施工実績を持っているか
- 空き家のことを熟知しているか
- 小回りがきき、迅速な対応をしてくれるか
- 小さな工事から大きな工事まで対応可能か
- 空き家の活用に役立つ適切なアドバイスができるか
- 状況や予算にあわせて適切なリフォームプランがつくれるか
上述のチェックポイントに数多く当てはまれば、安心して任せられる業者である可能性が高いと言えます。
自分でリフォームしたい買主もいる
空き家の売却をご検討される場合は、買主の需要も参考にしなくてはなりません。多くの買主はリノベーション済みの物件を希望していますが、中にはプランを自分で考えたい買主もいます。
そのような買主には、空き家には最低限必要な修繕とクリーニングをおこない、あわせて改修プランの提案書をお渡しすると効果的です。改修後と、自分なりのアレンジプランまで想像していただけます。
競合物件との差別化にもつながりますので、早期売却も期待できるでしょう。
空き家リノベーションで活用できる補助金
自治体によっては、空き家の活用を促進するために「リフォーム補助金制度」を設けている場合があります。必ず、着工前に自治体にご確認ください。
耐震や省エネリフォーム工事も、補助金制度を活用できる可能性があります。該当工事を実施される場合は、自治体にご確認ください。
なお、リフォーム関連の補助金制度は、自治体のホームページや以下のホームページでも確認できます。ご活用ください。
参考:地方公共団体における住宅リフォームに係わる支援制度検索サイト
ホームインスペクション(住宅診断)も、補助金を活用できる場合があります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
中古物件売却の元付け不動産会社様に、ご提案
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