2021年は「コロナ禍発のウッドショック」が続く中、さまざまな要因から住宅需要が活発になりました。原価の高騰もあり、新築価格はかつてないくらい上昇しています。
しかし、今度は「ロシア発のウッドショック」で、需給の先行きが不透明になりつつあります。日本の新築マーケットは、急ブレーキがかかりかねない状況です。
日本経済の先行き不安も、市場を冷やす要因になりそうです。住宅取得は、様子見をする人や新築から中古へ方針転換する人が増えるかもしれません。
本稿では「ロシア発ウッドショック」のメカニズムについて解説します。「コロナ禍発のウッドショック」の復習もしておきましょう。
目次
ロシア発ウッドショックのメカニズム
さっそく、ロシア発のウッドショックのメカニズムをご紹介します。このウッドショックは、主に以下のふたつの要因で木材の需給バランスが崩れました。
- ロシアが一部の木材輸出を停止した
- 森林認証機関がロシア産木材の認証を一時停止した
上述の要因は、上がロシアの動き、下が西側諸国をはじめとする国際社会の動きになります。それぞれ、詳しく解説します。
ロシアが一部の木材輸出を停止
コロナ禍発のウッドショックが続く中、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました。これを受け欧米諸国が経済制裁を発動して、ロシアはその対抗策で一部製品の輸出を停止しています。
ロシア政府が発表した輸出停止品目には、チップ状の木材や合板用単板などが含まれます。針葉樹等の原木丸太に関しては、すでに2022年1月から輸出が停止されています。
参考:JETRO「200品目以上の機械製品などを輸出禁止に」
では、ロシアから製材が入ってこないと、どのような影響があるのでしょうか。
2021年のロシアからの製材輸入量は、日本の製材輸入量全体の18%を占めています。ロシア産製材は主に羽柄材(構造材以外の製材)に利用されていて、この需給バランスの悪化が懸念されています。
ロシアは森林大国です。その影響は欧米にもおよび、木材供給の逼迫は避けられないでしょう。欧米からの木材輸出量も減少すると、日本は非常に厳しい状況になります。
森林認証機関がロシア産木材の認証を一時停止
国際的な森林認証機関であるPEFCやFSCが、ロシアとベラルーシを起源とする木材の認証を一時的に停止すると発表しました。
FSCは、ロシアによるウクライナへの攻撃的な侵攻に深い懸念を抱いており、この暴力の犠牲となったすべての人々のために団結しています。
FSC国際理事会では、FSCのミッションと規格に対する最大限のコミットメントのため、またこれらの国におけるFSC認証の取消しが与える潜在的な影響力を十分に分析をしたうえで、ロシアとベラルーシで取引を行う認証(trading certificate*)をすべて一時停止し、これらの国からの管理木材調達を禁止することを決定しました。
森林認証制度は「持続可能な森林の利用と保護を図ろうとする制度」で、持続性や環境保全に配慮した木材に承認マークを付与しています。
認証を受けた木材を使うことは、森林を保護して環境を守ることになります。SDGsや脱炭素化の流れもあり、森林業者や製紙業者をはじめ、多くの企業が認証材を選んで利用しています。
ですから、ロシア産木材の認証の一時停止も、ウッドショックに拍車をかけそうです。認証を受けた木材は限られていて、すぐに代替品を見つけるのは難しいとみられています。
価格高騰は木材にとどまらず、住宅価格上昇へ波及
今回の価格高騰では、住宅の内装材等に使用されている「塩ビ樹脂 (塩化ビニール樹脂)」も注目されています。塩ビ樹脂の原価も、高騰しているのです。
塩ビ樹脂の原料は、エチレンと塩素です。エチレンは、原油由来のナフサを電気分解して生産します。塩素は、工業塩を電気分解することで生産します。
ロシアは世界3位の原油生産国であり、ウクライナ侵攻でナフサの価格が急上昇しています。物流や電気分解・熱分解で必要な燃料(石炭や天然ガスなど)価格も上昇しています。
塩ビ樹脂がクロスやCF(クッションフロア)等に使われていることを考えれば、内装の原価が上昇することは想像に難くありません。
また、その他のさまざまな原材料も、ロシアが輸出や生産に関わっています。例をあげてみましょう。
- ニッケル(ステンレスの原料):世界輸出量の約1割がロシア産
- パラジウム(半導体に使われる):ロシアが主要な生産国
- セメント:製造に必要な燃料の大部分がロシア産の石炭
このような原材料や燃料の価格が上昇すると、少し遅れて、建材や設備のメーカーが値上げし始めます。そうなると、さらに住宅価格が押し上げられるでしょう。
今の新築住宅は、買い手にとってリスクが大きすぎます。すぐに買う必要がない方は、慎重になり、様子見を決め込んでも不思議ではありません。
一方、今後は相続等で多くの中古物件が出てきます。その中から良質なものを探し購入したい、と考えている方も増えてくるでしょう。これからしばらく、中古売却には追い風が吹くかもしれません。
そもそも「ウッドショック」とは
最後に、2021年のコロナ禍発ウッドショックのおさらいをしておきましょう。
ウッドショックとは?
ウッドショックとは、木材の受給バランスが崩れ、市場が混乱している状況を指します。オイルショックになぞらえて、そう呼ばれています。
コロナ禍発のウッドショックは、2021年3月ごろから顕在化しました。木材の高騰と供給不足がおこり、建築工事の着工遅れや工事の中断、受注停止に追い込まれる事業者がたくさん出ました。
このウッドショックの発端はコロナ禍でしたが、さまざまな要因が重なり大混乱となりました。その要因を、いくつかあげてみましょう。
- コロナウイルスの感染拡大で、木材の需要が落ち込んだ
- 需要の落ち込みで、製材業界が減産体制に入っていた
- コロナ禍からの立ち直りで、世界的に木材の需要がV字回復した
- テレワークの急拡大で、移住やリノベーションの需要が急増した
- アメリカの歴史的な低金利が、住宅需要に拍車をかけた
- 中国が、コロナ禍封じ込めで経済活動を復活させた
- カナダが、害虫の被害で木材の生産量を落としていた
- 欧州が、アメリカと中国向けの輸出を増加した
- 輸出量増加によってコンテナ不足が発生した
これだけ重なれば、世界中の木材マーケットが混乱して当然です。そんな中で、日本はどうなったのでしょうか。
日本は、円安と購買力低下に苦しんでいました。にもかかわらず、日本は「ジャパングレード」と呼ばれる製材が存在するほど品質にうるさい国です。
一方、アメリカや中国は高く買ってくれるうえ、マーケットも大きく売りやすい。品質も、日本ほどうるさくないのです。当然のように、日本は世界に買い負けてしまいました。
しかし、アメリカの住宅需要が落ち着き、日本のウッドショックも一服し始めていました。その矢先に、ロシアのウクライナ侵攻でぶり返した形です。
国産材は使えなかったのか
日本は、周りを見渡せばたくさんの森林が目に入ります。それを代替利用して、ウッドショックを和らげることはできなかったのでしょうか。
じつは、そう簡単にいかない理由がたくさんあります。ご紹介しましょう。
- 日本は木材自給率が低く、かなりの量を海外産に依存していた
- 日本の山は険しく、伐採するのにコストがかかる
- 国産材の伐採は、補助金なしでは赤字が出る状況
- 国内林業は、需要予測に合わせて供給能力を縮小していた
- 多くの建築会社は、潤沢な国産木材の入手ルートを持っていない
- 建築用材は乾燥が必要で、伐採してすぐに使えるわけではない
- ウッドショックは特需で、森林業界は乾燥設備の投資に慎重
日本は高度経済成長期の旺盛な木材需要に対応するため、1964年に木材輸入を自由化しました。その後、急激な円高もあり、木材の輸入量が急増して自給率は急落しました。
今後、日本の人口は減ることが分かっていますが、住宅ストックはすでに余っています。このような流れの中で、国内林業は供給能力を縮小していたのです。
そこで、ウッドショック特需が発生しました。しかし、コストや設備などの問題もあり、供給を急増させられません。特需ですから、投資にも慎重にならざるを得なかったのです。
中古物件売却の元付け不動産会社様に、ご提案
現在のところ、ウッドショックの混乱がいつまで続くか、不透明な状況です。しばらくは欧米からの木材輸入量が減少して、つられて国産材も高騰するでしょう。
新築住宅の購入は、慎重にならざるを得ない状況です。どうしてもすくに住宅が要る方は、ウッドショックや円安が落ち着くまで、中古が有力な選択肢になるでしょう。
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