築古物件の買主が、住宅ローン減税を受けるための条件

市場で売買されている築古物件の中には、住宅ローン減税の対象外となる建物があります。この減税措置を利用したい買主は当然「対象外の物件」を避けるので、築古は不利と言わざるを得ません。

ところがある調査では、中古住宅購入者の約11%が「築古物件を買い、住宅ローン減税を利用している」という結果が出ています。ちょっと意外に感じませんか?

ほとんどの築古物件は、そのままでは住宅ローン減税の対象外です。つまり、上述の調査結果は「住宅ローン減税の要件に適合させて、売却を有利に進めた物件がある」という事実を示しています。

では、どのように要件を満たせば、築古物件の買主が住宅ローン減税を使えるようになるのでしょうか。掘り下げてみましょう。

目次

中古住宅が住宅ローン減税を受けるための要件

中古住宅が住宅ローン減税を受けるための要件

住宅ローン減税(住宅ローン控除)とは「年末の住宅ローン残高(または住宅の取得対価のうちいずれか少ないほう)の金額の1%が、10年間にわたり所得税の額から控除される」制度です。

中古住宅がこの制度を利用するには、新耐震基準に適合していることを証明する必要があります。そのために、次にご紹介するAまたはB、どちらかの条件を満たさねばなりません。

条件A:一定築年数以下の物件であること

まずご紹介するのは、築年数による条件です。住宅ローン減税を利用するには、以下の築年数条件に合致している必要があります。

  • 耐火建築物の場合(RC造、SRC造など) ⇒ 25年以内に建築された住宅であること
  • 耐火建築物以外の場合(木造など) ⇒ 20年以内に建築された住宅であること

ここで注意していただきたいのは「新耐震基準が施行された1981年6月1日以降に建築確認を済ませた物件であっても、上述の築年数条件に合致しなければNG」ということです。

この築年数条件を満たせない物件は、次の条件Bを満たすことで適合を証明できます。なお本稿では、便宜上、築年数条件を満たせない物件を「築古」と表現します。

条件B:耐震性能を書類等で証明できること

上述の築年数条件を満たせない物件は、以下にあげるいずれかの書類等により、現行の耐震基準に適合していることを証明する必要があります。

  • 耐震基準適合証明書
  • 既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)
  • 既存住宅売買瑕疵(かし)保険に加入

それぞれ、もう少し補足説明しておきましょう。

耐震基準適合証明書

「耐震基準適合証明書」は、耐震基準に適合していることを建築士等が証明する書類です。耐震診断の結果、評点1.0以上なら適合証明書が発行できます (1.0未満は補強工事が必要)。

耐震改修工事の内容が確定していない等の理由で引き渡し前の申請が難しい場合は、買主が引き渡し前に仮申請しておくことも可能です。ただしその場合は、耐震改修工事の実施が要件になります。

なお、一般社団法人「不動産流通経営協会」が2021年6月にまとめた資料によると、築古物件を買って住宅ローン減税を利用した人のうち43.8%は、この条件を満たすことで耐震性を証明しています。

既存住宅性能評価書(耐震等級1以上)

「既存住宅性能評価書」は、住宅性能表示制度(国が定めた統一基準に基づいて建物を評価する制度)を利用すると取得できる書類です。耐震性以外にも、以下のような様々な性能を評価します。

  • 劣化対策
  • 維持管理対策
  • 火災対策
  • 省エネ対策
  • 高齢者等の配慮対策

住宅ローン減税を利用するには、この制度で「耐震等級1 (=現行耐震基準なみ)」以上を取得せねばなりません。それ以外に上述のような性能も評価されるため、取得ハードルが高いと言えます。

その代わり、この制度を活用することで紛争処理のサポートが受けられたり、売却時に有利に働いたりします。とは言え、上述の不動産流通経営協会の資料によると、あまり利用者がいないようです。

既存住宅売買瑕疵(かし)保険に加入

「既存住宅売買瑕疵保険」は、主に住宅の構造躯体や防水性能を保証する保険です。現行の耐震基準に適合していることが加入要件になっていますので、耐震性能の証明に利用できます。

なお、旧耐震基準の住宅がこの保険に加入する際は、最初にご紹介した「耐震基準適合証明書」等の取得が必須になります。ですから、旧耐震基準の住宅がこの制度で耐震性を証明する意味は薄いでしょう。

参考:既存住宅売買かし保険Q&A「どんなに古い住宅であっても保険加入できるのですか?」

さらに、既存住宅売買瑕疵保険を耐震性の証明に利用する場合は、原則として引き渡し前に契約を締結しておく必要があります。「買主任せ」にできませんので、必ず売主が動かねばならない点に留意しましょう。

なお、上述の不動産流通経営協会の資料によると、築古物件を買って住宅ローン減税を利用した人のうち26.8%がこの方法を活用しています。「瑕疵保険が付保される」ところが、高評価されているのでしょう。

耐震性以外の条件

住宅ローン減税を利用するには、耐震性以外の要件も満たさねばなりません。いくつか例をご紹介しましょう。

  • 自ら居住するための中古住宅であること
  • 床面積が50m²以上であること(緩和条件あり)
  • 借入金の償還期間が10年以上であること
  • 合計所得金額が3000万円以下であること
  • 増改築等の場合、工事費が100万円以上であること

住宅ローン減税の要件については、国税庁のWebサイトで確認できます。詳しく知りたい方は、ご覧ください。

参考:タックスアンサー「中古住宅を取得した場合 (住宅借入金等特別控除)」

築古物件が住宅ローン減税を受ける方法

築古物件が住宅ローン減税を受ける方法

ここまでをまとめながら、築古物件が住宅ローン減税を受ける方法を検討してみましょう。まず、中古住宅の耐震性能を証明する際、以下の4点を考慮する必要があります。

  • 「既存住宅売買瑕疵保険」は引き渡し前の加入が必須
  •  旧耐震基準で建った建物は、瑕疵保険の加入に「耐震基準適合証明」が必須
  • 「耐震基準適合証明書」を引き渡し後に取得する場合は、耐震改修工事の実施が必須
  • 「既存住宅性能評価書」は取得のハードルが高く、利用者も少ない

上述の4点を考慮すると、実質的に選択肢は以下の3つにしぼられます。

  • 引き渡し前に耐震基準適合証明書を取得する
  • 引き渡し前に既存住宅売買瑕疵保険に加入する(ただし、新耐震基準の建物)
  • 引き渡し後に耐震改修工事を実施して、耐震基準適合証明書を取得する

ここまでを踏まえると、築古物件が住宅ローン減税を受ける方法が見えてきます。まとめておきましょう。

基本的に、築年数要件がクリアできない築古物件(耐火建築物は築26年以上、非耐火建築物は築21年以上)は、耐震基準適合証明書の取得既存住宅売買瑕疵保険の加入を目指す。

ただし、旧耐震基準で建った築古物件(確認申請済証の日付が1981年5月31日以前の物件)は、耐震基準適合証明書の取得を優先する。

新耐震基準の適合判定は、耐震診断をおこなったうえで上部構造評点を算出して評価されます。この評点が1.0未満の建物は、耐震補強工事が必要です。

なお、日本木造住宅耐震補強事業者協同組合によると、旧耐震の建物の「8割以上が1.0を下回る結果」になっているそうです。築古物件は、ほぼ耐震補強工事が必要と考えたほうがよいでしょう。

参考:木耐協「耐震基準適合証明書について」

住宅ローン減税が使える物件の優位性

住宅ローン減税が使える物件の優位性

さて、住宅ローン減税が使える築古物件は、どの程度市場で有利になるのでしょうか。それほど有利にならないのであれば、わざわざ費用をかけて耐震改修する価値は低いでしょう。

市場動向と耐震化のメリットから、考察してみます。

市場動向から見た優位性

まずは、市場動向を確認してみましょう。先述の一般社団法人「不動産流通経営協会」が2021年6月にまとめた資料を参考にします。

参考:中古住宅購入における住宅ローン利用等実態調査

住宅ローン減税の認知度

そもそも、住宅ローン減税の認知度はどの程度あるのでしょうか。「中古住宅購入における住宅ローン利用等実態調査」の結果は、以下のとおりです。

  • どのような制度か具体的に知っている:49.1%
  • 具体的ではないが、制度があることは知っている:42.3%
  • まったく知らない:8.5%

上述の結果を見ると、住宅ローン減税についてまったく知らない方の割合は「8.5%」です。かなり認知度が高く、関心度も高いと言えそうです。

住宅ローン減税を利用した人の割合

住宅ローン減税の関心度が高いことはわかりました。では、実際にはどの程度の方が利用されているのでしょうか。先述の資料から読み解くと、結果は以下のようになります。

なお、こちらの数字はすべて、資料の数字を「中古住宅購入者に対する割合」に換算してあります。

  • 住宅ローン控除を利用した人:47.2%
  • 住宅ローン控除が適用される物件を探すようにした人:25.7%
  • 本当は築古物件でもよかったけれども、築年数要件に合う物件を探すようにした人:10.5%
  • 築古物件(築年数要件以上)を購入、かつ住宅ローン減税を利用した人:11.0%

どうでしょうか。この数字を「大きい」と見るか「小さい」と見るかは、人それぞれでしょう。しかし、少なくとも「住宅ローン減税の要件に適合しているほうが、売却で有利」とは言えそうです。

耐震証明の取得方法

ちなみに、築古物件を購入して住宅ローン減税を利用した人は、耐震性の証明をどうやって取得したのでしょうか。自分で手配したのでしょうか?それとも、取得済み物件を買ったのでしょうか?

この結果も、見てみましょう。まずは、既存住宅売買瑕疵保険の利用者からです。

  • 自分で手配した:26.3%
  • 取得済み物件を買った:73.7%

つづいて、耐震基準適合証明書の利用者も見てみましょう。

  • 自分で手配した:50.5%
  • 取得済み物件を買った:43.2%

かなり多くの物件で、耐震性の証明を売主側が準備していることがわかります。

住宅ローン減税以外のメリット

先述のとおり、既存住宅性能評価を使えば紛争処理のサポートが。既存住宅売買瑕疵保険を使えば、瑕疵の修繕に対して補償が受けられます。

じつは、中古住宅が新耐震基準を満たしていることで、他にも購入者にメリットがあります。例をいくつかご紹介しましょう。

  • 不動産取得税の減額
  • 登録免許税の減額
  • 家屋の固定資産税の減額(耐震改修工事が必須)
  • 地震保険料の減額

住宅ローン減税も含め、このような減額措置がありますので、現行の耐震基準を満たす築古物件は売却で有利です。

参考:住宅リフォーム推進協議会「リフォームの減税制度」

【まとめ】築古物件が住宅ローン減税を受けるには?

築古物件が現行の耐震基準を満たしていると、売却で有利になります。しかし、多くの築古物件が、現行の耐震基準を満たしていません。では、どうすればいいのでしょうか。

築古物件はまず耐震診断を実施して、評点が1.0以上になるように耐震改修を実施していただくとよいでしょう。評点1.0以上で「耐震基準適合証明書」が取得できるようになります。

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