事故物件の告知義務について、不安や疑問を抱えていませんか?賃貸経営者や管理会社にとって、事故物件に関する法律やガイドラインを正しく理解し、適切に対応することは極めて重要です。
告知義務に違反すると、経済的リスクがあるだけでなく、信頼や信用を失う事態につながりかねません。賃貸経営は地場に根ざした商売ですから、信頼・信用の失墜は死活問題になり得るでしょう。
しかし、正しい知識さえあれば、これらの問題を回避できます。あなたも、賃貸経営の安定と信頼・信用を守るために、本稿で《事故物件の告知義務》について知識を深めてみませんか?
目次
事故物件の定義と、抑えておきたい告知義務のポイント
まずは、事故物件の定義からおさらいしておきましょう。
事故物件とは
事故物件とは、自然死や日常の不慮の事故を除く原因で、以前の居住者が死亡している物件の俗称です。法令等により明確に定義されているわけではありません。
不動産取引においては、判例や国土交通省が策定したガイドライン等を《事故物件かどうかの判定基準》として利用しています。
▼ 市場への影響
事故物件は、心理的な抵抗感から住むのをためらう人が多いでしょう。よって、賃料や売却額が、市場価格よりも安くなる傾向があります。
一方、割安感があるため、事故物件であることを承知のうえで借りたり購入したりする人もおられます。
▼ 告知義務
物件に関する重要な情報は事前に告知する必要があり、これを告知義務といいます (宅建業法47条1項1号)。買主や借主が安心して物件を選べるようにするための、重要なルールです。
事故物件に関しては、これまで、その事実を「伝える/伝えない」の判断基準が曖昧でした。いわゆる《ルームロンダリング》はその典型例でしょう。
しかし、後述するガイドラインの制定、およびインターネットによる消費者への周知により、徐々に共通認識ができつつあります。
告知義務に関する法律やガイドライン
事故物件の告知義務に関する法律とガイドラインを、ピックアップしておきましょう。
▼ 宅地建物取引業法
宅地建物取引業法の中で、事故物件の告知に関連するのは「第47条1項1号」と「第79条の2」です。それぞれ、概要をご紹介しましょう。
第47条1項1号 | 宅地や建物の売買、交換または貸借の契約の締結について勧誘をするとき、故意に事実を告げない、あるいは不実のことを告げる行為をしてはならない。 |
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第79条の2 | 第47条の規定に違反する行為をした者は、2年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金、またこれを併科する。 |
この法令により、心理的瑕疵(かし)をともなう事故物件は、告知義務の対象となります。
▼ ガイドライン
国土交通省が、2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定して、トラブルの未然防止を図っています。
このガイドラインは、判例や取引実務を考慮して、妥当と考えられるものを整理して取りまとめたものです。「宅地建物取引業者の義務の判断基準」として位置づけられています。
たとえば、事故物件に関して、こんな疑問の解消に役立ちます。
- 当該不動産の取引に際して、宅地建物取引業者が取るべき対応は?
- 宅地建物取引業法の解釈上、宅地建物取引業者が負うべき義務は?
未見の方は、一読しておかれるとよいでしょう。
参考:宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
賃貸物件で入居者がお亡くなりになる事案は、日々各地で発生しています。
それがいわゆる心理的瑕疵にあたるのか、心理的瑕疵にあたるならいつまで告知を継続するのか、さまざまな因子により判断が分かれます。買主・借主の性格や価値観によっても変わるでしょう。
ガイドラインは、制定時点で宅地建物取引業者による告知の範囲として妥当と考えられる基準を示しています。法的な拘束力はないものの、判断基準のひとつとして一般化していくでしょう。
告知しなくてもよい事案とは
既出のガイドラインには「告知しなくてもよい事案」が記載されています。ご紹介しておきましょう。
- 自然死
- 日常生活の中での不慮の死
- 隣接住戸で発生した事案
- 日常生活で通常使用しない共用部分で発生した事案
老衰や持病による病死などの自然死は、告知の対象外です。ガイドラインでは、住宅でそのような死が発生することは「当然に予想されるもの」としています。
また、事件性のない事故として「自宅の階段からの転落、入浴中の溺死、転倒事故、食事中の誤嚥 (ごえん)」を例にあげ、告知の対象外としています。
さらに「隣接住戸、または借主もしくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分」も、原則として告知の対象外としています。
どのような状況で告知義務が発生するのか
では、告知義務が発生するのは、どのような事案なのでしょうか?
▼ 告知すべき事案とは
ガイドラインでは、告知しなくてもよい事案以外はすべて「告知すべき事案」としています。また「自然死」や「日常生活の中での不慮の死」が発生した場合の例外として、以下をあげています。
- いわゆる特殊清掃等がおこなわれた場合
- 買主・借主から事案の有無を問われた場合
対象となる物件で過去に人が孤独死され、長期間にわたって発見されなかったことで「特殊清掃」や「大規模リフォーム」などがおこなわれた場合は「告知が必要」としています。
また、買主や借主から対象物件でお亡くなりになった方がいるかどうか問われた場合も、告知が必要です。
▼ 調査方法と告知義務
ご存じのとおり、宅地建物取引業者は、販売や媒介の活動にともない一定の情報収集をおこなう義務を負っています。では、人の死に対してどの程度の情報収集義務があるのでしょうか?
ガイドラインには、以下のように記載されています。
売主・貸主に対して、告知書(物件状況等報告書)その他の書面に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする。
売主や貸主から過去に人が亡くなった事案があったと知らされた場合、または宅地建物取引業者が自らそのような事実を知った場合は、注意が必要です。
それが取引に重要な影響を与えると判断されれば、買主や借主に必ず伝えなければなりません。
なお、宅地建物取引業法では、告知がなかった場合の自発的な調査(周辺住民への聞き込みやインターネットを使った調査など)の義務については言及されていません。
対象物件で人が亡くなったと思われる特別な事情がないときは、原則として自発的な調査の義務はないと考えられます。
参考:宅地建物取引業法
一方、告知がない場合であっても、人が普通ではない形で亡くなったかもしれないと思われる事情があるときは、売主や貸主に確認しなければなりません。
またガイドラインでは、売主・貸主に対し、告知が必要な事案について以下の対応を取るほうが望ましいとしています。
- 告知書等への記載が適切におこなわれるように、必要に応じてアドバイスする
- 故意に告知しなかった場合は民事上の責任を問われる可能性があることをあらかじめ伝える
これらの対応により、取引の透明性が高まり、買主や借主の利益の保護が期待されています。
▼ 告知方法の注意点
ガイドラインでは、告知は「調査を通じて判明した点について実施すれば足り」、「調査において売主・貸主・管理業者に照会した内容をそのまま告げるべきである」としています。
また「売主・貸主・管理業者から不明であると回答された場合、あるいは無回答の場合には、その旨を告げれば足りる」としています。
告知は「後日のトラブル防止の観点から、書面の交付等によることが望ましい」とし、告知すべき項目については以下をあげています。
- 事案の発生時期 (特殊清掃等を実施した場合には発覚時期)
- 場所
- 死因 (不明である場合にはその旨)
- 特殊清掃等がおこなわれた場合にはその旨
一方、プライバシーの観点から「氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況」などは告げる必要がないとしています。
告知の際は、亡くなった方とその家族の尊厳を大切にし、平穏な暮らしを乱さないよう気をつける必要があります。
告知が必要な期間
告知が必要な期間は、賃貸物件と売買物件で異なります。
▼ 賃貸物件の場合
ガイドラインでは、死が発覚してから「概ね3年間を経過した後は、原則として、借主に対してこれを告げなくてもよい」としています。
ただし、事件性や周知性、社会的な影響度が高い事案はこの限りではありません。たとえば、ニュースになるような大きな事件で人が亡くなった物件は、3年以上経過したあとでも告知が必要です。
▼ 売買物件の場合
売買物件については、期間の定めがありません。原則的に、どれだけ年数が経過していようが告知が必要と考えていただいたほうがよいでしょう。
売買物件でこのようなガイドラインが示されているのは「マイホーム」を重く見ているからです。マイホームは、トラブルになった場合に買主に与えるダメージが大きく、保護されています。
事故物件の告知義務に違反すると、どうなる?
事故物件の告知義務に違反すると、どうなるのでしょうか?
売主・貸主が負うリスク
事故物件の告知義務を怠ると、売主・貸主は契約不適合責任を問われる可能性があります。買主・借主が「知っていたら、住まなかった」と思うような事実を隠してはいけません。
故意に隠せば、損害賠償や減額請求、契約解除もあり得ます。賃貸住宅の場合はそれが悪評となり、経営に大打撃を与える可能性もあるでしょう。
不動産会社が負うリスク
不動産会社が瑕疵(かし)の告知を怠れば、宅地建物取引業法違反で懲役や罰金を科される可能性があります。これは、先述の「宅地建物取引業法 第79条の2」によります。
「瑕疵」は法律用語で、通常あるべき品質を欠いている状態を指します。不動産取引では「物理的瑕疵・法律的瑕疵・心理的瑕疵」の3種類について、告知義務が生じます。
事故物件は「心理的瑕疵」に該当しますので、告知の未実施は刑罰を科される対象になり得ます。
賃貸住宅の事故物件化を防ぐための予防策
事故物件は、所有者や不動産会社にとって経済的損失や法的責任を招く可能性があります。できれば、未然に防ぎたいですよね?
所有・管理する物件を事故物件にしないために、どのような対策が打てるのでしょうか?
事故物件化を未然に防ぐために、やっておきたいこと
賃貸住宅で起こる事故や事件を防ぐのは、難しいように感じます。しかし、事故物件化を未然に防ぐために、以下の施策を打てるのではないでしょうか?
- 物件の安全対策
- 防犯対策の強化
物理的瑕疵による事故を防ぐために、物件の安全対策は非常に重要です。定期的な点検や必要な修繕を怠ると、入居者の怪我や死亡事故につながってしまいます。
殺人や強盗などの凶悪犯罪を未然に防ぐためには、セキュリティ対策の強化も不可欠でしょう。
物件の安全性を高めるため、防犯カメラやセキュリティシステムの導入など、犯罪抑止効果の高い対策を検討してみてはいかがでしょうか?
入居者の状況を把握するためのコミュニケーション方法
今後、賃貸住宅では高齢者の入居が増加していくでしょう。高齢者の孤独死等による事故物件化を防ぐためには、入居者の状況把握やコミュニケーションが重要になります。
所有・管理する物件に高齢者がおられるようなら、定期的な連絡や訪問などを通じて入居者の変化を早期に察知できる体制を整える必要があります。
回覧板を活用して、入居者の安否確認に利用するのもよいでしょう。古典的な手法ですが、回覧板が止まれば「異常のシグナル」と見なせます。声かけのきっかけにもなります。
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