建築物省エネ法の改正で、2025年4月から、新築住宅は省エネ性能の適合が義務付けられる運びとなりました。適合しない住宅は建築確認が通りませんので、建てられません。
また、適合の義務化に先立ち、2024年4月から省エネ性能表示の推進制度もスタートしています。2030年には省エネ性能の厳格化が予定されていますので、新築住宅の供給者は対応待ったなしです。
さて、新築は慌ただしいですが、中古住宅は改正の影響を受けないのでしょうか?―― いいえ。新築で省エネ化が推進されれば、中古住宅への波及も必至です。本稿で詳しく解説しましょう。
なお、以下の記事が本稿の前編にあたります。「改正建築物省エネ法」について詳しく知りたい方は、まず以下の記事からご覧ください。
目次
改正建築物省エネ法とは?本丸は省エネ基準適合の義務付け
さっそく「改正建築物省エネ法」の概要から、簡単にご説明します。
改正建築物省エネ法の概要
建築物省エネ法の正式名称は「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」と言います。その名のとおり、建築物の省エネ性能の向上を図るための法律です。
2022年にこの建築物省エネ法が改正され、現在、段階的に実行(施行)されています。本稿では、その施策の中でも以下のふたつを取り上げます。
- 建築物の省エネ性能表示制度(2024年4月にスタート)
- 省エネ基準適合を義務付け(2025年4月に実行される)
この改正の本丸は「省エネ基準適合の義務付け」です。先述のとおり、2025年4月以降、基準を満たさない住宅は新築できなくなります。
さらに、2030年までに省エネ基準が厳格化され「ZEH水準」が基準になる予定です。大手のハウスメーカーやディベロッパーは、すでに「ZEH」のスタンダード化を推進し始めています。
省エネ基準適合の義務付けは、住宅販売あるいは賃貸事業者の新築物件がメインターゲットになっています。ですから「中古住宅は、大した影響がない?」と思う方がおられるかもしれません。
しかし、この改正の影響は、中古住宅にも波及するでしょう。なぜなら、消費者目線では新築と中古は同じ「住まい」カテゴリの中の比較対象だからです。
消費者は、住宅選びの際、新築・中古を問わず判断材料に「省エネ性能」を用いるでしょう。中古住宅を扱う事業者は、選択肢に加えてもらうために省エネ性能を実装することになります。
省エネ基準適合住宅のメリットとデメリット
つづいて、住宅を省エネ基準に適合させるメリットとデメリットの観点から、住宅業界に与える影響を考察してみましょう。
メリットは、地球温暖化に適応しやすくなること
省エネ基準適合住宅のメリットは「国・消費者・住宅供給者」それぞれ三者三様です。
- 国:温室効果ガスの削減に寄与
- 消費者:電気代や医療費の削減に寄与
- 住宅供給者:顧客のニーズに応えられる
住宅の省エネ化は日本にとって必須であり、大きなメリットがあります。エネルギーの消費量が少なく、再エネを利用できる省エネ住宅は、温室効果ガスの削減に寄与します。
近年、地球温暖化が進んで、異常気象や自然災害が激甚化しています。これをくい止めるには、温室効果ガス(主に二酸化炭素)の削減が必要なのです。
近年、温室効果ガスの削減は世界的な潮流になっています。ところが、日本の電気の4分の3は、化石燃料(石炭・石油・LNGなど)を使って発電しています。
参考:環境エネルギー政策研究所「2021年の自然エネルギー電力の割合」
化石燃料を燃やせば、二酸化炭素が発生します。ですから、住宅内の電力消費量を減らし、太陽光発電等の再生可能エネルギーを利用することが、地球温暖化の抑止につながるのです。
世界と「2050年にカーボンニュートラル達成」を約束している日本は、国をあげてこの流れを加速していくでしょう。住宅の省エネ化は、不可逆の流れです。
一方、消費者にも大きなメリットがあります。例をあげてみましょう。
- 急激な電気代高騰の影響を受けにくくなる
- 夏涼しく、冬暖かい家で過ごせる
- 病気を発症しにくくなる
消費電力の低減と創エネ利用を両立できれば、急激な電気代高騰の影響を受けにくくなります。真夏も真冬も、少ないエネルギーでお部屋を快適な温度に保てます。
家の中を1年中快適な温度に保てると、体への負担が少なくなり、病気を発症しにくくなるでしょう。その結果、医療費の軽減も期待できます。
参考:日本サステナブル建築協会『省エネ住宅と健康の関係をご存じですか?』
国の後押しもあり、市場では、今後も上述のような「省エネ住宅のメリット」を理解する消費者が増えていくでしょう。それにともない、省エネ住宅のニーズも高まっていくと想定されます。
ですから、住宅供給者が住宅を省エネ基準に適合させることは、顧客ニーズに応えることになるのです。
デメリットは、コストアップ
省エネ住宅のデメリットを深掘りすると、これから必要になる知識が見えてきます。
住宅を省エネ基準に適合させるデメリットは、発注者にとっても施工者にとっても「コストアップ」でしょう。なぜコストアップするのか、書き出しておきます。
- 材料費が高額になりやすい
- 労務費も上がりやすい
- 高効率の設備は傾向として高額
- 再エネ関連設備の費用もかかる
省エネ住宅は、上述の費用がかかります。しかし、省エネ化された住宅はある程度コストアップの説明が付きやすいでしょう。消費者側も、受け入れやすいのではないでしょうか。
とは言え、建築費のコストアップは家計の負担につながります。コストを相殺するために、減税や補助金の知識が必要不可欠になるでしょう。
建築主は、給付の受け忘れをなくさなければなりません。施工者は、減税や補助金の案内漏れをなくす必要があります。さて、あなたは省エネ住宅と住宅ローン減税の関係を説明できますか?
省エネ性能表示が中古住宅に与える影響
つづいて、省エネ性能表示が中古住宅に与える影響を考察してみましょう。
2024年4月以降、新築住宅は省エネ性能ラベルの表示が「努力義務」になりました (ペナルティがあるので実質的には義務)。この制度が中古住宅に与える影響も見逃せません。
建築物の省エネ性能表示制度とは?
建築物の省エネ性能表示制度が、2024年4月にスタートしました。省エネ性能を示すラベルや評価書を発行して、消費者が省エネ性能を把握したり比較したりできるようにする制度です。
住宅を販売・賃貸する事業者は、該当の建築物について、ラベルや評価書を用いてエネルギー消費性能を表示する努力義務が課されます。
参考:国土交通省告示第970号
この制度の概要を表にまとめておきましょう。
対象 | 2024年4月1日以降に建築確認申請をおこなう新築、およびその物件が再販売・再賃貸される場合 |
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表示方法 | 省エネ性能ラベル、またはエネルギー消費性能の評価書 |
評価方法 | 自己評価、または第三者評価(BELS) |
罰則 | 告示に従わず表示をしていない事業者は、必要に応じて国が勧告・公表・命令を実施 |
「省エネ性能ラベル」は、エネルギー消費性能が星の数で分かるようになっています。また、断熱性能が数字で示され、目安光熱費が金額で示されます。
参考:国土交通省「新しい『建築物の省エネ性能表示制度』が始まります!」
住宅の省エネ性は、国が指定するWEBプログラム等を使って、販売・賃貸事業者が自分で評価できます。しかし、消費者目線で考えると、第三者評価機関に評価を依頼するほうが有利かもしれません。
既存建築物(制度開始以前に建築確認済み)の省エネ性能表示は「推奨」とされていて、勧告・公表・命令の対象から外れています。
省エネ性能表示の推進により、中古住宅も省エネニーズが高まる
繰り返しになりますが、2024年3月以前に建築確認を済ませた物件は、販売・賃貸する際の省エネ性能表示が「任意」となっています。では、中古住宅の売買は気にしなくていいのでしょうか?
中古住宅も、表示するほうが市場で売買しやすくなるでしょう。理由は、以下のとおりです。
- 新築住宅で省エネ化と省エネ性能表示が進んでいく
- 「省エネ」の露出が増え、消費者の目に触れる機会が多くなる
- 消費者が省エネの効果(メリット)に詳しくなる
今回の法改正により、新築を起点として、今まで以上に「省エネ」に関する情報の露出機会が増えるでしょう。
そうなれば、消費者は省エネの効果に詳しくなり、選定基準として用いるようになるでしょう。省エネ性能を明確にしている物件に好感を持ち、その逆の物件に疑心を持ちます。
じつは、すでに不動産情報サイト等で各物件の省エネ性能表示を確認できるようになっています。省エネが絞り込み条件に加われば、省エネの選定基準化が前進するのではないでしょうか?
参考:建築物省エネ性能表示制度の開始に伴い、LIFULL HOME’Sの物件情報に「省エネ性能ラベル」の表示を開始
これまで、住宅のランニングコストはブラックボックスでした。ですから、住宅選びにおいてランニングコストは評価対象から外されがちでした。
しかし、省エネ性能ラベルが普及すれば、光熱費の目安が見える化されます。そうなれば、新築だけでなく、中古住宅も消費者から光熱費の開示を期待されるようになるのではないでしょうか。
現在、中古住宅市場で起こり始めていること
最後に、現在、中古住宅市場で起こり始めていることをご紹介して終わりたいと思います。
新築価格の高騰により、新築希望者が中古市場に流入
材料費や労務費の上昇にともない、マンションを中心に新築住宅の価格が高騰・高止まりしています。その結果、相対的に割安な中古住宅の購入を検討される方が増えています。
このような流れの中で、どのようなことが中古住宅市場に起こりそうでしょうか?
新築から中古住宅に流れて来た方々は、省エネに対する意識が高めです。また、金利優遇や住宅ローン減税などに影響することもあり、中古住宅の購入時に「省エネ」を意識せざるを得ない状況です。
このような状態を考慮すると、やはり中古住宅の売買でも「省エネ」がキーワードになるでしょう。
実際、住宅リフォーム推進協議会が実施した調査では、消費者の1/4から1/5程度が省エネ性能の向上を求めていて、その割合は上昇傾向にあることが分かっています。
参考:リフォーム産業新聞
断熱等級などの活用により省エネ性能の高さを可視化した物件では、成約までの期間が短くなった事例もあります。おそらく、今回の省エネラベルでも同じようなことが起こるでしょう。
さらに、現行の省エネ性能を満たさない住宅は、いわば「既存不適格」物件になります。住宅に資産性を求める方は、今後は省エネ基準非適合の住宅に手出ししなくなるのではないでしょうか。
このような流れは、2025年、そして2030年以降さらに強まると思われます。
省エネ性能表示が中古住宅の売れ行きを左右する
国は、消費者の目を省エネ性能の高い住宅に向けようと誘導しています。「供給者は省エネ性能の適合を守ってください」「消費者は省エネ性能を意識して買ってください」と仕向けています。
立地や利便性に加え、新たに「省エネかどうか (光熱費が低いかどうか)」が重視される時代が来てしまったのです。中古住宅は無関係、ということはないでしょう。
売主目線では、中古住宅の省エネ性を可視化すると「売りづらくなる」と感じるかもしれません。たしかに、そういう一面はあります。しかし、買主目線ではこうです。
- 光熱費が可視化されると、買いやすい
- 光熱費を公表していない物件は、買いにくい
これからの中古住宅は、売買時に光熱費まで視野に入れた「コスパ」を見られます。ですから、中古住宅を売るときは「コスパ映え」を意識しなければなりません。
コスパ映えすれば、非省エネ住宅より価格が高くても「買いたい物件」の候補に入れてもらいやすくなるでしょう。そういう意味では、中古住宅も「省エネ性能ラベル」を武器にできます。
もう、写真映えする内装だけでは売りづらくなるかもしれません。中古住宅を扱う事業者さまは「内装+省エネ」を意識して、御社の強みにしてみてはいかがでしょうか?
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