現在、日本は国を挙げて外国人旅行客を増やそうとしていて、インバウンド旅行者数の回復と増加が見込まれています。そこで問題になるのが、宿泊施設の不足です。
一方、不動産市場を見てみると、賃貸物件は余り気味で厳しい競争にさらされています。空室や賃料の低下に悩まされているオーナーさまが、少なくないでしょう。
そこで、本稿では「賃貸×民泊」のハイブリッド運用の始め方や注意点をご紹介します。賃貸物件の空室対策を探しておられる方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
民泊の始め方
近年、不動産業界では「賃貸×民泊」のハイブリッド運用が注目されています。賃貸募集の空室期間を民泊として運用することで、できる限り収益のロスをなくすのです。
しかし、無許可で民泊を営み宿泊料を取ると旅館業法違反になります。ちゃんと必要な申請をおこない、許可をもらわなければなりません。
住宅宿泊事業開業までの流れ
さて、民泊営業の許可をもらうには、どうすればいいのでしょうか。
じつは、賃貸物件を宿泊施設に転用する場合「簡易宿所・特区民泊・新法民泊」の3つの方法あります (詳しくは後述)。
本稿では「賃貸×民泊」のハイブリッド運用ができる「新法民泊」の開業の流れをご紹介します。新法民泊は「住宅宿泊事業法 (通称:民泊新法)」の届出が必要です。
- 事業計画を立てる
- 住宅宿泊管理業者探し
- 民泊用住宅の要件を満たしているか確認
- 必要なリフォームをおこなう
- 住宅宿泊事業者の届出をおこなう
- Web等を使って周知していく
- 開業
賃貸物件を民泊に転用する場合、人が宿泊しているあいだ住宅宿泊事業者は不在となります。このケースでは、宿泊管理業務を必ず住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません (住宅宿泊事業法 第11条2項)。
住宅宿泊管理業者に、民泊開業に必要な申請やリフォームをアドバイスしてもらうと、開業までスムーズに進みます。できるだけ早めに、住宅宿泊管理業者を探し始めましょう。
住宅宿泊管理業者は、登録制です。大家さまは、まず取引のある賃貸住宅管理会社や宅地建物取引業者が宿泊管理業者の登録を済ませていないかご確認ください。
参考:住宅宿泊管理業者の一覧
新法民泊で利用するお部屋は、さまざまな要件をクリアしなければなりません。とは言え、賃貸住宅は元々人が暮らすための設備が整っていますので、それほど苦労せずにクリアできるでしょう。
ただし、入居者の募集を並行しておこなう必要があります。入居者を募集していないことが明らかな場合は、要件を満たしたお部屋と認めてもらえません (住宅宿泊事業法 第2条1項2号)。
また、新法民泊は、2ヶ月ごと(偶数月)に宿泊日数や宿泊者数などを都道府県知事に報告する義務があります (住宅宿泊事業法 第14条)。
開業に向けて確認したいチェックポイント
つづいて、開業に向けて確認したいチェックポイントをご紹介します。
住宅の居住要件を満たす
新法民泊で利用する住居は、以下のいずれかに該当する必要があります。
- 特定の方が生活のために継続して使用している家屋(一般住宅等)
- 売却または賃貸の形態で入居者の募集がおこなわれている家屋(分譲住宅や賃貸住宅等)
- 所有者や賃借人などによって随時居住利用されている家屋(別荘やセカンドハウス等)
先述のとおり、賃貸物件は「入居者の募集がおこなわれている家屋」の条件を満たす必要があります。
住宅の設備要件を満たす
新法民泊で利用する住居には「台所、浴室、便所、洗面設備」が必要です。浴室・便所・洗面設備はユニットバスでも認められますが、浴室を近隣の公衆浴場で代替することはできません。
民泊が禁止されていないか確認
自治体によって、条例で住宅宿泊事業をおこなえる地域や期間を制限している場合があります。各自治体の担当窓口で確認しておきましょう。
分譲マンションを新法民泊に転用される場合は、管理組合や管理会社等の規約もチェックしておきましょう。民泊を禁止している場合があります。
消防法令の確認
宿泊者の安全確保のため、民泊には消防法令の遵守が求められます。とくに「賃貸×民泊」で運用する物件は、人を宿泊させるあいだ住戸に家主がいませんので、求められる対応が厳しくなります。
適合していない状態で事業を開始すると、業務停止命令等の対象になる場合があります。管轄の消防署等に相談しながら、必要な措置を取りましょう。
事業の適正な遂行のために必要な措置の確認
住宅宿泊事業者は、住宅宿泊事業の適正な遂行のために下記の措置を取る必要があります。しっかり、ひとつずつ、クリアしておきましょう。
- 宿泊者の衛生の確保(清掃や換気など)
- 宿泊者の安全の確保(非常用照明や避難経路など)
- 外国人観光旅客の快適性や利便性の確保(外国語を用いた案内など)
- 宿泊者名簿の備付け(本人確認や保管期間など)
- 周辺地域への悪影響の防止(騒音防止やゴミ処理の方法など)
- 苦情等への対応(適切かつ迅速に対応)
- 標識の掲示(届出住宅ごとに、見やすい場所に掲示)
- 都道府県知事への定期報告
3種類の民泊と、必要な資格
さて、民泊運営に資格等は必要なのでしょうか。
先述のとおり、賃貸物件を宿泊施設に転用する場合「新法民泊・特区民泊・簡易宿所」の3つの方法あります。それぞれ、以下の許可や認定、届出が必要です。
- 新法民泊 ⇒ 住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)の届出をおこなう
- 特区民泊 ⇒ 国家戦略特区法(平成25年法律第107号)の認定を得る
- 簡易宿所 ⇒ 旅館業法(昭和23年法律第138号)の許可を得る
それぞれ、もう少し詳しく解説しましょう。
住宅宿泊事業法(民泊新法)の民泊
住宅宿泊事業法(民泊新法)では、業務に関係する業者を3つに分けて役割や義務等を決めています。
住宅宿泊事業者 | 宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる、旅館業者以外の者。都道府県知事に届出をする必要がある (住宅宿泊事業法 第3条第1項)。 |
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住宅宿泊管理業者 | 住宅宿泊事業者から委託を受け、報酬を得て住宅宿泊管理業を営む者。国土交通大臣の登録を受ける必要がある (住宅宿泊事業法 第22条第1項)。 |
住宅宿泊仲介業者 | 報酬を得て住宅宿泊仲介業を営む、旅行業者以外の者。観光庁長官の登録を受ける必要がある (住宅宿泊事業法 第46条第1項)。 |
住宅宿泊事業者は、届出を条件に、旅館業法第3条第1項の許可がなくても住宅宿泊事業を営むことができます。
ですから、届出をせずに営業した場合には旅館業法違反、届出内容に虚偽があった場合は住宅宿泊事業法違反となり、罰則の対象となり得ます。
新法民泊の主なメリットは、以下のふたつです。
- 届出だけで済むので開業のハードルが低い
- 簡易宿所では営業できない「住居専用地域」で運営できる
一方、新法民泊の主なデメリットは「年間提供日数が180日以内に制限される」ことです。民泊による収益を伸ばしていきたい方にとっては、かなり重い制約になるでしょう。
とは言え、多くの賃貸物件オーナーさまにとって「新法民泊」が後述のふたつの民泊より現実的な選択肢になります。
なお、人が宿泊しているあいだの家主の所在については「家主居住型・家主不在型」どちらでも届出できます。家主不在型で運営する場合は、住宅宿泊管理業者への委託が必要です。
国家戦略特区法の特区民泊
国家戦略特区は、正式には「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」と言います。この名前からよく勘違いされますが、特区民泊は日本人にもご利用いただけます。
特区民泊を運営するには、都道府県知事(保健所)の認定を受ける必要があります。ただし、運営可能区域が限られていて、現在以下の自治体のみ認定をおこなっています。
- 東京都大田区
- 千葉市
- 新潟市
- 北九州市
- 大阪府
- 大阪市
上述の区域にない賃貸物件は、そもそも空室を特区民泊へ転用することができません。
また、特区民泊には以下の特殊な規定(国家戦略特別区域法施行令 第13条)がありますので、ご留意ください。
- 宿泊者と賃貸借契約を締結する必要がある
- 床面積が原則「25m²/室」以上必要
特区民泊の主なメリットは、以下のふたつです。
- 新法民泊のような営業日数の制限がない
- 簡易宿所より認定基準をクリアしやすい
一方、新法民泊の主なデメリットは「宿泊日数の下限設定がある」ことです。特区民泊は2泊3日以上の滞在が条件になっていますので、1泊のみの宿泊は受け付けられません。
旅館業法の簡易宿所
旅館業法における旅館業とは「ホテル・旅館・下宿・簡易宿所」の4つを指します (旅館業法 第2条)。
民泊を始めるなら、このうちの「簡易宿所」で許可を取得するのが一般的です。簡易宿所を開業するには、都道府県知事等の許可が要ります (旅館業法 第3条)。
簡易宿所は年間の営業可能日数の制限がなく、収益性の高さが魅力です。一方、新法民泊や特区民泊より法規(消防法や建築基準法など)対応の難度が高くなります。
さらに、簡易宿所営業の許可を得るには、以下の問題もクリアしなければなりません。
- 建築基準法上の用途変更が必要
- 相部屋を主とする施設にしなければならない
- 宿泊施設を別の用途に使用することは認められていない
- 住居専用地域、田園住居地域、工業・工業専用地域では営業不可
賃貸物件を簡易宿所に転用する場合、建築基準法上の用途を「共同住宅」や「一戸建ての住宅」から「ホテルまたは旅館」に変更する必要があります。
また、簡易宿所は相部屋を主とする施設にしなければなりません (旅館業法 第2条3項)。相部屋がない場合は旅館またはホテルに該当するため、旅館・ホテルの無許可営業になってしまいます。
さらに、簡易宿所の営業許可を受けた建物は宿泊サービス以外の用途では使えません。つまり「簡易宿所×賃貸」のハイブリッド運用は、宿泊施設の用途外使用となり認められないのです。
そもそも、旅館業の簡易宿所は「住居専用地域、田園住居地域、工業地域、工業専用地域」に該当する用途地域では営業できません。
空室対策としての民泊運営のコツ
最後に、空室対策としての民泊運営のコツをご紹介します。
「民泊×賃貸」のハイブリッド運用から旅館業へ移行を検討する
立地によっては、民泊の収益性が賃貸の収益性を上回るケースもあるでしょう。たとえば、家賃8万円だった物件を1泊8000円で民泊に出せば、稼働率50%でも収益が12万円に変わり、滞納の心配もなくなります。
賃貸物件の空室を民泊にする場合、新法民泊の届出をおこなうのがもっとも現実的でしょう。しかし、新法民泊には「年間提供日数180日以内」の制約があり、本格的に民泊ビジネスをおこなうには不向きです。
ですから、新法民泊からスタートしてみて、調子がよく旅館業に移行できる条件がそろっているなら、簡易宿泊の許可を取得できないか検討してみるべきでしょう。
旅館業に移行できない場合は、新法民泊とマンスリーマンション等の賃貸借契約を組み合わせる方法もあります。
コンセプトやターゲットを決める
民泊は、コンセプトやターゲットを明確にするほうが運営方針を立てやすくなります。運営方針に合ったリフォームを実施して付加価値を高めることで、高単価の稼働も狙えます。
評判を上げ、次の誘客に生かすことも忘れてはいけません。SNS等のクチコミで高評価をいただけるように、以下に気を配るとよいでしょう。
- 清潔さ、衛生面の配慮
- おもてなし
- ユニークなサービス
- 宿泊後の心遣い
- アメニティや設備
宿泊客のニーズを知りたいなら、airbnb等の民泊仲介サイトの書き込みを熟読するとよいでしょう。
参考:airbnb
トラブルの防止・抑制に努める
せっかく収益率や空室率の改善の芽が出ても、トラブルが続くと撤退を考えたくなるものです。できる限りトラブルが発生しないように防止・抑制に努めましょう。
まずは、仲介サイト等で宿泊者に提示した内容と実際のお部屋やサービスに乖離が生じないように注意しましょう。とくに「清潔さ」はクレームに繋がりやすいので、特別な配慮が必要です。
周辺住民からの苦情の原因は、宿泊者のマナー違反によるものがほとんどです。文化や生活習慣の違う外国人にも分かるように、守ってもらいたいルールを明文化して知らせておきましょう。
万が一に備え、適切な保険に加入しておくことも大切です。
【まとめ】賃貸を民泊にするなら、適切なリノベーションを
近年、不動産業界では「賃貸×民泊」のハイブリッド運用が注目されています。あなたも賃貸募集の空室期間を民泊として運用することで、できる限り収益のロスをなくしてみてはいかがでしょうか。
ただし、民泊成功のカギを握るのは「集客」です。立地を変えることができない以上、ライバルより見栄えのする内装やサービスでゲストを引きつけなくてはなりません。
弊社REPAIR(リペア)には、原状回復から大規模リノベーションまで、年間1万件を超える工事実績と豊富な経験があります。この実績と経験を生かし、賃貸管理のご担当者さまに有効なリノベーションをご提案できます。
賃貸物件の民泊転用をご検討中の方は、ぜひ弊社へお気軽にご相談ください。