建築業界の職人不足問題 – 管理会社・建築会社はどう対処すべきか

建設業界の職人不足が、深刻になりつつあります。とくに大規模災害時などは、専門の職人が捕まらず、長期間復旧できない事態が発生して問題になっています。

もう諦めて、DX(デジタルトランスフォーメーション)が解決してくれるのを待つしかないのでしょうか。―― いや、今こそ、他社に先駆けて変革する好機ではないでしょうか。

本格的に人材が足りない時代がきたときに困らないよう、今から準備が必要です。職人が御社との取引を優先したくなるような、働きやすい環境を整えておかねばなりません。

本稿では、建設業就業者の現状や、人手不足の解消に役立つ施策をご紹介します。職人不足の備えにお役立てください。

目次

建設業界で深刻化している職人不足の現状

建設業界で深刻化している職人不足の現状

建設業界の人手不足が叫ばれて久しいですが、現在はどんな状況なのでしょうか。これまでの推移もご紹介しながら、解説します。

建設業就業者の現状

まずは、建設業の就業者の状況です。現在、以下のような状況になっています。

  • 平成10~20年ごろに就業者数が大きく減り、その後も減少傾向
  • 他産業に比べ就業者の高齢者比率が高く、若年者比率は低い
  • 有効求人倍率が相当に高く、常用の人材が切望されている

建設業の就業者数は、平成9年をピークに30%弱落ちています。平成9年は685万人だったのが、平成22年には498万人になり、その後も回復することなく令和2年に492万人まで減りました。

就業者の高齢化も深刻です。令和2年時点の「年代別構成比」を見てみましょう。

  • 全産業 (55歳以上):31.1%
  • 全産業 (29歳以下):16.6%
  • 建設業 (55歳以上):36.0%
  • 建設業 (29歳以下):11.8%

建設業は、全産業の平均に比べ就業者の高齢者比率が高くなっています。そして、若い職人が圧倒的に少ないのです。

2030年ごろには大量に離職者が出ますので、今後はさらに人手不足が深刻になりそうです。若者の雇用と、技術の継承が喫緊の課題となっています。

参考:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について【報告】」令和3年10月15日

有効求人倍率も、見てみましょう。

令和4年1月分の発表によると、常用(除パート)の全職業計は「1.17倍」でした。一方、建設系の職業では以下の結果になっています。

専門的・技術的職業/建築・土木・測量技術者有効求人60,408
有効求職9,111
有効求人倍率6.63倍
建設・採掘の職業/建設躯体工事の職業有効求人22,586
有効求職2,447
有効求人倍率9.23倍

建設業は、求人数に対してまったく求職数が足りていません。

参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年1月分)について」

数字が大きいほど人員が不足している事業所が多いことを示す「労働者過不足判断 D.I.」も見てみましょう。令和4年5月1日現在、正社員等労働者の数値は以下のとおりです。

  • 調査産業計:37
  • 建設業:49

建設業の「49」は、医療・福祉の「53」に次いで2番目に高い数値です。人材を強く切望している様子がうかがい知れます。

参考:厚生労働省「労働経済動向調査(令和4年5月)の概況」

たとえば、大工は1985年から減り続けています。2000年に約65万人でしたが、2016年には約35万人とほぼ半減しました。2030年には21万人にまで落ち込むと想定されています。

これほど急激に落ち込むと、技術革新等で相当に生産性が上がらなければ、人手不足に拍車がかかるのは避けられないでしょう。

建設業界の働き方の現状

従事者数の減少が大きいなら、就労環境の改善で新規求職者を増やしたいところです。しかし、人手不足でそこに手が回らず、残された従事者にしわ寄せがいっている状況です。

全産業で、労働時間を削減したり休日数を増やしたりすることが推進されています。しかし、建設業ではそれが思うように進んでいないのです。

既出の「最近の建設業を巡る状況について【報告】」で、建設業の年間実労働時間を見てみましょう。

年間実労働時間建設業平成9年度:2026時間▲41時間
令和2年度:1985時間
製造業平成9年度:1972時間▲134時間
令和2年度:1838時間
調査産業計平成9年度:1887時間▲266時間
令和2年度:1621時間

建設業は、全産業と比べて労働時間が360時間以上長くなっています。平成9年から令和2年の減少幅も、建設業は約40時間と小さく、魅力的ではありません。

では、年間出勤日数はどうでしょうか。

年間出勤日数建設業平成9年度:253日▲9日
令和2年度:244日
製造業平成9年度:240日▲16日
令和2年度:224日
調査産業計平成9年度:241日▲29日
令和2年度:212日

じつは、建設業技術者の約4割が4週4休以下で就業していて、年間出勤日数の削減が滞っています。

一方、内閣府が行った若者の就労への意識調査によると「収入よりもプライベートや家庭を優先する」と回答した若者が増えています。

建設業は人手不足で労働時間が多くなりがちで、現代の若者にとって魅力がない職場になっているのです。

参考:内閣府「特集 就労等に関する若者の意識」

2019年に政府が「働き方改革関連法」を施行しました。これにより、従業員の時間外労働の上限は原則として「月45時間・年360時間」となりました。

建設業については、上限規制の適用が「2024年3月31日」まで5年間猶予されます。しかし、長時間労働と休日労働が常態化している建設業では、実施が極めて困難な状況です。

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制」

誰もが人間らしく生きるために、労働時間や休日日数の適正化は必要です。建設業は、人手不足と2024年問題をなんとかクリアしていかねばならず、難しいかじ取りを迫られています。

人手不足を改善するために求められていること

人手不足を改善するために求められていること

さて、このような時世で人手不足に対処するには、どのような対策が効果的なのでしょうか。

それを探るために、まずは人手不足になる理由を考えてみたいと思います。

人手不足になる理由

人手不足になる理由は、離職者と入職者のバランスが取れていないからです。つまり、以下のふたつが原因です。

  • 高齢の職人が大量に離職
  • 若年労働者の取り込み不足

建設業では、若年労働者へのアピールが不足しています。求職に結びつく魅力を発信できておらず、そもそもその「魅力」をつくれていない状況です。

若者の離職率の改善に向けた対策も不足しています。この「不足」の原因のひとつが、雇用者側と被雇用者側の意識の違いです。

企業は若年技能労働者が定着しない理由を「作業がきついから、職業意識が低いから」と考えてしまいがちです。しかし、若者が考える「仕事を辞めた一番の理由」はそうではありません。

国土交通省がまとめた資料から「建設業離職者(離職時若年層)が仕事を辞めた一番の理由」のトップ5をご紹介しましょう。

  1. 雇用が不安定である(9.6%)
  2. 遠方の作業場が多い(9.0%)
  3. 休みが取りづらい(8.4%)
  4. 労働に対して賃金が低い(7.9%)
  5. 作業に危険が伴う(6.7%)

この結果を見ると、建設業から離職する若者は「毎月安定して給与がもらえ、休日がしっかりある職場で働きたい」と考えているようです。

そして「危険な仕事、移動に時間を取られる(拘束時間が長くなる)仕事は嫌だ」と感じているのです。

これらの対策ができない限り、建設業は他業種に若者を取られ続けるでしょう。既存の職人も、建設業の就労を希望する若者に「職人はやめておけ」と言わざるを得ないのが、現状なのです。

人手不足の解消に役立つ施策

さて、どうすれば、じゅうぶんな人数の即戦力が確保できるのでしょうか。最後に、人手不足の解消に役立つ施策を、以下の観点から考えてみたいと思います。

  • 求人・紹介のアップデート
  • 生産性向上
  • 人材育成

順番に、詳しく解説します。

紹介のアップデート

現在、さまざまな業界が人材を求めていて、平均有効求人倍率が1倍を超えています。ですから、他業種に比べて魅力が感じられないと、若者の確保は難しいでしょう。

そこで注目したいのが、仲間内での紹介です。建設業では、仲間内で紹介し合い発注先や仕事相手を探すことが少なくありませんので、これを利用するのです。

しかし、既存の紹介システムには以下のような問題があります。

  • 電話など、アナログな方法で交渉がおこなわれている
  • 仲間内での紹介は、つながりがある人以外との取引が発生しづらい
  • 人材不足が顕著になると、人材の囲い込みが進みやすい

このような問題の解決策として脚光を浴びているのが、オンラインマッチングプラットフォームです。

参考:建設業向けサービスの助太刀、18.5億円を調達

従来、オンラインマッチングの仕組は存在しましたが、Web(PC)が中心でした。今はスマホアプリで簡単に発注先や受注先を探せますので、Webに疎い職人でも気軽に利用できるようになっています。

オンラインマッチングプラットフォームを使えば、仲間が紹介してくれるのを待たなくてよくなります。蓄積された評価を見て、面識のない相手の評判や信用力を確認することもできます。

生産性向上

職人人口が減ると分かっている以上、業務の生産性の向上は避けて通れません。中でも、ICT(情報通信技術)を使った業務の効率化は、発注者側もしっかり取り組んでおきたいところです。

たとえば、以下のようなコミュニケーションのデジタル化は、導入する企業が増えつつあります。徐々に、電話やFAXから置き換わっていくでしょう。

  • 図面や工程をスマホやタブレットで確認し共有
  • 映像システムにより遠隔から業務の指示をする
  • コミュニケーションをチャット等でおこなう

このような技術の導入が奏功すれば、手待ちの減少や無駄な拘束時間の削減につながるでしょう。

一方で、業務のデジタル化は、年齢層の高い職人の抵抗も予想されます。習得すればラクになる等の強烈なインセンティブを示すと同時に、先に習得した職人のクチコミも利用したいところです。

人材育成

自社で職人を雇用している場合は、必要な技術をシステマチックに身につけられる環境の整備が大切です。請負契約であっても、技術習得の後押しをしていきたいところです。

とくに、マルチクラフター(多能工)の育成は、人手不足の突破口になるかもしれません。そのメリットをあげてみましょう。

  • ひとりでできる仕事が増える
  • 覚える職種によって繁忙期・閑散期を平準化できる
  • 年間の人工数を増やすことにつながる

夏に暇な職種と冬に暇な職種をかけ合わせれば、一年間を通して仕事を得られます。

人手不足にもかかわらず手が空いている職人がいるなら、マルチクラフターを奨励してはいかがでしょうか。人手不足や季節性報酬変動の有力な解決方法になるでしょう。

【まとめ】賃貸管理担当者さまにご提案

既存の職人の高齢化で「新しい業者を探していた」というお声をよく聞くようになりました。御社も、このようなことでお困りではないでしょうか。

  • 小規模修繕や原状回復など気軽に相談できる業者とつながりたい
  • 今依頼している業者の動きが遅くなってきた
  • 自然災害のあと、修繕できる業者を手配できなくて困った

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