不動産の賃貸管理業務は、どこまでテレワーク化できるのか?

不動産業界は、対面対応を必要とする業務が多いだけに、完全なテレワーク化が難しいですよね。物件案内や退去立会、クレーム対応など、リモートではやりにくいケースが少なくないでしょう。

一方、近年の人手不足から、効率的で働きやすい職場の構築が喫緊の課題になっています。そんな中、テレワークやITツールを導入して、業務の効率を改善している会社が現われ始めました。

本稿では、テレワーク導入の現状や、導入を成功させるためのポイントについて解説します。あなたの会社も、本稿を参考に業務を効率化するための一歩を踏み出してみませんか?

目次

賃貸管理業務におけるテレワーク導入の現状

賃貸管理業務におけるテレワーク導入の現状

コロナ禍を契機に非接触型の業務遂行が求められ、テレワークの導入が進みました。現在、テレワークはどの程度浸透しているのでしょうか?

じつは、まだ発展途上段階の業界が少なくありません。

テレワーク導入の現状

現在の不動産業界、とりわけ賃貸管理では、多くの方が「まだ、テレワークの導入は難しい」と感じているのではないでしょうか?なぜなら、以下のような導入の障壁があるからです。

  • 対面のほうがやりやすい業務が多い
  • コミュニケーションが取りづらくなる
  • 情報漏洩リスクが高まってしまう

賃貸管理は、対面の方がやりやすい業務が多いですよね。たとえば、管理会社側も入居希望者側も、内見や契約は対面で実施したい方が多いのではないでしょうか?

実際、《LIFULL HOME’S Business》が2024年3月に実施した調査によると、オンラインによる実施率は以下のように限定的です。

  • オンライン内見:38.2%
  • 電子契約:18.74%

内見や契約以外にも、対面でのコミュニケーションを求められる業務が少なくありません。たとえば、設備故障や入居者トラブルの対応は、オンラインでは処理できません。

とくにトラブル対応は、初動が肝心です。リモートで対応しようとするとコミュニケーションの質が落ちてしまい、クレームに発展しかねません。

テレワークでは、セキュリティの確保も困難です。社外から機密情報へアクセスする機会が増える分だけ、情報漏洩リスクの懸念が高まってしまいます。

東京商工リサーチが例年おこなっているアンケート調査でも、以下のような結果(2022年6月)が出ています。

  • 在宅勤務を「現在、実施している」企業:29.1%
  • 在宅勤務を「実施したが取りやめた」企業:27.2%

この調査によると「実施したが取りやめた」企業は年々増加しているようです。コロナ禍でいったん広がったテレワークですが、浸透しきれない実状を映し出しています。

今後の展望と課題

とは言え、既出のアンケート結果からは、3~4社に1社はテレワークが根付き始めている様子も見て取れます。

現状ではまだまだ問題が多いですが、今後のテクノロジーの進歩によって、テレワークの導入は広がっていくのではないでしょうか?

まだ未導入の会社は、今から徐々に試行錯誤していかれるとスムーズに移行できるでしょう。今後の展望と課題を確認してみましょう。

▼今後の展望

クラウド型の賃貸管理の導入が進むと、場所を選ばず業務を遂行できるようになります。同時に業務の効率化も進みますので、多くの企業が導入の検討や現状の見直しを実施することになるでしょう。

現状でもすでにクラウド化できる業務があり、今後ますます増えていくでしょう。さらに、AIが組み込まれることで、使いやすさと利便性が向上していくかもしれません。

現在利用できるクラウド型サービスの例をあげてみましょう。たとえば入居管理では、SaaS(ネット経由で利用できるサービス)等の利用により以下の業務がクラウド化できます。

オンライン内見たとえば《Spacely》など。管理会社の業務効率がアップする。入居希望者は、物件にいかなくても内見が可能になる。
オンライン入居申込たとえば《スマート申込》など。管理会社、仲介会社、保証会社が申込情報を共有できる。入居希望者は時間や場所を問わず手続きできる。
IT重説や電子契約たとえば《ビデオ通話ツール》や《GMOサイン》など。賃貸借契約における対面での手続きを簡素化できる。入居希望者は遠隔地から契約できる。

上述の業務がクラウドでおこなえるようになると、テレワークを導入しやすくなります。また、業務の効率化やペーパーレス化、電話連絡の削減にも寄与するでしょう。

一方、建物管理や運営管理はどうでしょうか?

建物管理清掃、修繕、リフォームなどのアウトソース。工事管理アプリ等を導入することで、リモートによる管理や連絡が可能になる。
運営管理テレワークでも、賃貸管理に関わるさまざまな情報をデータベース化して管理可能。在宅勤務で集中して作業できるようになる。
家賃管理ファームバンキングやインターネットバンキングとの連携で、家賃の入金確認にかかる時間と手間を削減できる。

建物管理や運営管理でも、SaaS等の利用により、業務のクラウド化が進んでいます。たとえば《ReDocS(リドックス)》や《賃貸革命クラウド版》などが有名でしょうか。

今後は、既存のクラウド化サービスが洗練されていく一方で、新規参入も増えていくでしょう。競争が進めば、料金もリーズナブルな水準になっていくはずです。

とは言え、そうなるのを待つのはよくありません。感度の高い競合は、既存のサービスで業務レベルと効率化の水準を上げてきます。可能な限り、先手を打つべきでしょう。

▼テレワーク導入の課題

業務のテレワーク化を目標としたとき、いくつかの課題が現われるでしょう。その課題をコツコツと達成していくことで、テレワークを自社の文化や武器にできます。

では、どのような課題が現われるでしょうか?おもなものをご紹介しますので、参考にしてください。

対面業務との両立当面、顧客や物件と接する必要がある業務はなくならない。リモートでできることと、できないことの区分が必要。
業務プロセスを見直しテレワーク環境下でも効率的に業務を遂行できるように、変えていく。マニュアルの整備や従業員へのITスキル研修なども必要。
システム環境の整備テレワークに対応できるように、ITシステムやICTツールを導入する。コストと時間がかかるため、段階的な導入が必要。

賃貸管理では、テレワークでの遂行が難しい業務も多々あります。たとえば、退去立会やクレーム対応などがその代表でしょう。

ですから、多くの会社では、テレワーク化が難しい業務とテレワーク化が可能な業務の切り分けが必要になるでしょう。既存の業務プロセスがテレワークになじまない場合は、見直しも必要です。

マニュアルの整備や従業員へのITスキル研修、そしてITシステムやICT(情報通信技術)ツールの導入も、テレワーク化を成功させるカギになります。

テレワーク導入を実現するためのポイント

テレワーク導入を実現するためのポイント

つづいて、テレワーク導入を成功に導くためのポイントをご紹介しましょう。

テレワークに適した業務を選別

何かひとつの業務がリモート化できないからと言って、テレワークを諦める必要はありません。

《リモートで遂行できる業務》と《リモートでは遂行できない業務》を明確にして、リモートで遂行可能なものからリモート化に取り組みましょう

区別の手順は、以下のとおりです。

  1. 業務の棚卸し
  2. テレワーク適性による分類
  3. 優先順位付け
  4. 段階的な導入

それぞれ、詳しく解説します。

▼業務の棚卸し

まずは、現状の業務をすべて洗い出し、それぞれの特性を明確にしましょう。

たとえば「業務内容必要なコミュニケーション機密情報を取り扱うかどうか必要なツール」などの観点から、特性を判断するとよいでしょう。

業務フロー図を作成すると、業務の流れや関係性が可視化され、より分析しやすくなります。

▼テレワーク適性による分類

棚卸しした業務を、以下の4つの観点から評価し、テレワークへの適合性を可視化しましょう。

緊急性顧客からの問い合わせなど、緊急を要する対応が必要かどうか。緊急性の高い業務は、テレワークよりもオフィスワークの方が適している場合がある。
機密性機密性の高い情報を取り扱う業務は、オフィスワークの方が適している場合がある。セキュリティ対策を万全にしてから、リモートで作業できるようにする。
対面性顧客や取引先との対面でのやり取りが必要かどうか。対面性が低い業務ほど、テレワークに適している。工夫することで、対面からリモートにできる場合もある。
システム依存度業務を実行するうえで、社内システムやネットワークへのアクセスが必要かどうか。社外からのアクセスが制限されている場合は、テレワーク化が難しい。

▼優先順位付け

テレワークへの適合性を可視化できたら、次は以下の点を考慮して、テレワーク化する業務の優先順位を決めます。

  • テレワーク化の容易さ
  • テレワーク化による効果

必要な環境や体制の整備が容易な業務から着手することで、スムーズにテレワークを導入できるでしょう。

あわせて、「業務効率化・コスト削減・従業員の満足度向上」など、期待できる効果が大きい業務を優先的に検討したいところです。

▼段階的な導入

優先順位付けができたら、まずは上位の業務から試験的に導入するとよいでしょう。課題や改善点を洗い出しながら、徐々に範囲を広げていく方法がおすすめです。

導入を進める際、顧客や従業員とのコミュニケーションを怠らないようにしましょう。不安や疑問をひとつずつ解消しながら、理解と協力を得ることが重要です。

ITシステムやICT(情報通信技術)ツールを活用する

ITシステムやICTツールの導入がきっかけで、テレワーク化を実現した企業が少なくありません。既存のSaaS等をうまく組み合わせて使うことで、テレワーク化を容易にできないか検討してみましょう。

先述のとおり、以下の業務はオンライン化やクラウド化が進んでいます。

  • 物件案内
  • 入居申込
  • 契約手続き
  • 家賃管理
  • 建物管理
  • オーナー対応
  • コミュニケーション

また、今より優れたツールやシステムがより安価に登場する可能性もあります。情報収集を継続しておくとよいでしょう。

アウトソーシングを検討する

不動産業界では、オフィスのほうがやりやすい業務が少なくありません。しかし、そんな業務でもアウトソーシングを戦略的に活用することで、テレワーク化を促進できるかもしれません。

たとえば、入居者からの問い合わせやクレームなど、電話対応業務をコールセンターに委託できないでしょうか?委託できれば、テレワーク化の障壁をひとつ減らすことができます。

アウトソーシングする場合は、自社の課題やニーズに合わせて適切な業務を選定し、信頼できるパートナーと連携することが重要です。

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