経営方針の中に「地域社会への貢献」を取り入れ、実施する会社が増えています。目立つのは大手の取り組みですが、中小の会社の中にも何らかの地域貢献活動を実施している会社が少なくありません。
あなたの会社は、地域貢献活動に取り組んでいるでしょうか?活動を実施しているとしたら、何のためにやっていますか?意外と、その問いにスラスラ答えられる方は少ないかもしれませんね。
本稿では、地域貢献の概要や実施するメリット、注意点をご紹介します。まだ地域貢献活動に取り組めていない方や、目的を見失ってしまった方は、本稿で理解を深めてみてはいかがでしょうか?
目次
不動産会社がおこなうべき地域貢献(社会貢献)とは?
さっそく「地域貢献」の概要からご説明しましょう。そもそも「地域貢献活動」とはどんな活動なのでしょうか?
地域貢献活動とは
地域貢献活動とは、社会貢献活動の中で特定地域の社会問題解決に目的が絞られた活動のことです。平易な言葉にすると「地域のために一肌脱ぐ活動」と言えるでしょう。
ここで言う「地域」とは、当該会社の拠点が立地していて、営業活動をおこなううえで強い影響を受けたり与えたりしている場所のことです。「商圏」と言い換えられるかもしれませんね。
また、会社の持つ資源や専門能力を活用できて、無償で問題の解決に貢献できる活動でなくてはなりません。つまり、地域貢献活動の要諦をまとめると、以下のようになります。
- 商圏が抱える社会問題の解決に的を絞る
- 会社の持つ資源や専門能力を活用できる活動を実施する
- 無償で問題の解決に貢献できる活動を実施する
どうでしょうか?難しそうですか?
最初は、簡単かつ身近なところからチャレンジしていけばいいでしょう。極論すれば「雇用」や「納税」だって地域貢献活動に含められます。
まずは、ご自身の半径10mくらいの社会に目を向けてみて、解決ニーズのある問題を探してみてはいかがでしょうか。そこから、徐々に視野を広げていけばOKです。
なお、近年はESGやCSRの活動の一環として地域貢献に取り組む会社が増えています。少し、ESGやCSRの説明もしておきましょう。
ESG(環境・社会・企業統治)とは
ESGは、以下の頭文字です。
- Environment(環境)
- Social(社会)
- Governance(企業統治)
ESGは、もともとは投資活動で用いられた概念です。企業の持続可能性や、長期的なリターンを測る基準として使われました。
つまり、環境保護や社会貢献、あるいは企業統治の対応が会社の長期的な業績向上に寄与すると考えられたのです。
たしかに、この3つが欠けると、会社の存続を脅かす事態に発展しそうですね。ですから昨今は、経営においてもESGに配慮する会社が増えてきているようです。
参考:内閣府「ESGの概要」
CSR(企業の社会的責任)とは
CSRは「Corporate Social Responsibility」を省略したものです。つまり、企業が果たすべき社会的責任のことです。通常「企業の社会的責任」と訳されます。
このような概念が誕生した背景には、虚偽表示やリコール隠しなどの事件があります。事件が発覚すると、消費者の不信を招いた企業は大きなダメージを受け、存続できなくなることもあるでしょう。
一方、CSRを果たすことで不祥事の発生を未然に防ぐことができ、ステークスホルダーのリスクが低減されます。CSR活動を通じて社会から信頼されると、業績の向上につながります。
不動産会社に求められる地域貢献活動
さて、不動産会社に求められる地域貢献活動とは、どんな活動でしょうか?具体的に地域貢献活動に着手する際、何を指針にすればいいのでしょうか?
大事なのは「商圏が抱える社会問題の解決に的を絞る」ことです。解決ニーズのない課題に取り組んでも、誰も喜んでくれません。解決できたとしても、得られる信頼はわずかでしょう。
そして、もうひとつ大事なのが「会社の持つ資源や専門能力を活用できる活動を実施する」です。会社の持つ資源や専門能力を活用できると、経済的にも効率的にもよい活動になります。
実行することで、間接的に自社の業績向上に寄与する活動を選ぶ
地域貢献活動は「無償で問題の解決に貢献できる活動」である必要があります。活動の対価を要求すれば、それは単なる有償サービスです。
しかし、会社がおこなう地域貢献活動はボランティアで終わってはいけません。間接的に企業価値を高める活動でなければ、いずれ活動が頓挫することになるでしょう。
では「間接的に企業価値を高める活動」とは、どんな活動なのでしょうか?一例をご紹介しましょう。
感謝祭 | お客さまや地域住民を招いて、社員が企画したさまざまなイベントを実施。身近で相談しやすい存在に感じていただけるだけでなく、町を活性化させることで住み続けたい人が増加する。 |
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起業家支援 | 商店街活性化策。閉店しているお店を長期で借り上げ、定期借家契約で家賃を前払い。その費用でオーナーは改修を実施。改修後の物件を転貸する。家賃を逓増することで起業家の負担を軽減。 |
外国人支援 | 多言語に対応できる体制を整え、外国人のお客さまの賃貸を支援・仲介する。円安や海外企業の拠点が増えた影響で、比較的リッチな外国人のお客さまに少し高めの物件を借りてもらえる。 |
他にも、インターネットで探せばさまざまな地域貢献活動が出てきます。他業種の活動も、転用できるかもしれません。参考情報には、事欠かないでしょう。
ただし、大事なことは自社の周りの社会問題を見つけ、自社の資源や専門能力で解決に貢献することです。周りを見渡し、他の誰でもなく、自社が取り組むべき課題を発見してください。
継続できない地域貢献活動は要注意
持続可能性の低い地域貢献活動は、要注意です。地域貢献活動は、中長期的な施策と言えます。継続することで「信頼」の残高が積もり積もって、いずれ業績向上に転化するものです。
途中で継続を放棄してしまうと、地域社会から「安易にやめた」「見せかけだった」と思われかねません。そうなると、企業イメージを損なう場合もあるでしょう。信頼の蓄積もストップします。
しかし、無償でおこなう地域貢献は、営利団体である会社の論理と背反します。ですから、不況の度に活動内容の見直しがおこなわれ、中止あるいは縮小化されるケースが珍しくありません。
では、どうすれば「持続可能な地域貢献活動」になるのでしょうか?―― ポイントは、以下のふたつでしょう。
- 本業との関連性が高い
- 活動の成長とともに本業も成長する
本業との関連性が高く、活動の成長とともに本業も成長する取り組みであれば、たとえ不況期であっても続ける理由になります。
企業による安定した支援が望まれる不況期に継続してこそ、地域社会の本当のパートナーになれるのではないでしょうか?
地域貢献活動の参考例
ここまでご覧になって、何かできそうな活動を思いつかれたでしょうか?
もう少し、地域貢献活動の参考例をご紹介しましょう。「何をすればいいか、よく分からない」という方は、以下の例をご参照いただき、商圏に転用できないか考えてみてください。
- コミュニティーイベントへの協賛
- 災害時の被災者受け入れ
- 近隣住民も利用可能な除細動装置(AED)の設置
- 「子ども 110番の家」活動への協力
- 高齢者見守り運動への協力
- 地域清掃への参加や会社周りの清掃活動
- 出張授業や会社見学の受け入れ
- 地元のプロスポーツチームを応援する
- 社内で使う消耗品を地産地消に切り替える
- 改修工事で使う建材を地産地消に切り替える
- 従業員の残業をなくす
- 障がい者雇用率を上げる
- 従業員の出身校を資金援助する
たくさん書き連ねましたが、何でもやっていいわけではありません。
繰り返しになりますが、商圏が抱える社会問題の解決に的を絞ることと、会社の持つ資源や専門能力を活用できる活動を実施することが大切です。
ぜひ、半径10メートルの社会が抱える問題から解決してみてください。そして、問題探しの範囲を徐々に広げていきましょう。
地域貢献活動をおこなうメリット
つづいて、地域貢献活動をおこなうメリットを3つご紹介しましょう。
メリット1:地域社会から信頼されるようになる
地域貢献活動をおこなう会社は、地域社会から「地域を活性化しようとする仲間」であると見なされます。その結果、あなたの会社は地域社会から肯定的・好意的に受け入れられるでしょう。
これは、いわゆる「内集団バイアス」と呼ばれる心理効果によるものです。
また、ホームページ等で「地域に貢献する」と公表することで、不祥事を起こしにくくなります。地域を裏切るまいという意志が強まり、法令違反を早期発見・早期修正できる可能性が高まります。
こちらは、いわゆる「一貫性の法則」と呼ばれる心理効果によるものです。
内集団バイアス | 自分が所属する集団やメンバーに対して肯定や好意を示す心理的傾向。 |
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一貫性の法則 | 最後まで一貫性を持った態度を取ろうとする心理的傾向。 |
社会的なペナルティを受けたり、評判が傷ついたりするリスクを減らせたら、信頼を失うことなく積み重ねていけるでしょう。
メリット2:業績向上に貢献する
地域貢献活動を通じて地域から信頼されたり企業イメージが向上したりすることで、顧客獲得の面で有利になります。
さらに、周辺住民から事業に対しての理解を得られやすくなり、営業活動をスムーズにおこなえるようになるでしょう。好意的な口コミや紹介の増加も期待できます。
信頼を積み上げることで、LTV(ライフタイムバリュー)も向上するでしょう。たとえば、賃貸管理から始まり、不動産の売却や購入の相談までいただける機会が増えるのではないでしょうか。
認知度アップも業績に影響します。これは、いわゆる「単純接触の原理」と呼ばれる心理効果で、見慣れることで警戒が薄れ親近感が増すのです。
活動規模が大きくなり、商圏の活性化に役立てば、地域や物件の価値向上にもつながります。町自体を盛り上げることが、回り回って自社の利益につながるのです。
今後、日本の人口は減少します。商圏の人口を維持したいのであれば、たくさんの方に「住みやすそう」「ずっと住みたい」と思ってもらわねばなりません。
不動産業界は、そんなことができる数少ない業界のひとつではないでしょうか?
メリット3:人材の採用や定着によい影響をもたらす
先述のとおり、信頼が高まると業績の向上につながります。業績が上がれば、従業員の待遇や福利厚生などを改善するための余裕が生まれるでしょう。
待遇や福利厚生がよくなれば、優れた人材の確保が容易になり、既存の従業員の離職率が下がるでしょう。従業員のモチベーションが上がり、さらなる業績向上が期待できます。
地域貢献活動をおこなう際の注意点
最後に、地域貢献活動をおこなう際の注意点をふたつご紹介します。
注意点1:短期的には業績をダウンさせることもある
地域貢献活動は、短期的な業績アップにつながらないケースが多いでしょう。一方、人件費等のコストは発生します。一部の従業員の理解を得られず、士気が落ちることもあるかもしれません。
また、地域貢献活動は、通常業務ではなく「追加的な活動」になるでしょう。人員を増やさずに取り組むとなれば、通常業務が人員不足に陥る恐れもあります。
ですから、余裕のない会社に地域貢献はおすすめできません。売上が足りない場合は、地域貢献活動をおこなうよりも、売上アップにフォーカスして活動するほうが合理的です。
地域貢献活動は、どうしても業務効率を犠牲にせざるを得ません。会社の我慢と根気が試されます。地域に貢献したいという強い意志と、活動を支える財務的体力が必要です。
注意点2:自社が取り組むべき活動を吟味する必要がある
地域貢献活動は、社会のニーズを把握したうえで、自社の資源や能力を生かすことが重要です。そうすることで、負担やコストを減らしながら、より信頼の得られる地域貢献ができます。
会社がおこなう地域貢献活動は、単なる慈善事業で終わらせてはいけません。慈善事業がしたいなら、わざわざ自ら活動しなくても、利害関係のない団体に寄付する方法もあります。
ですから、地域貢献は活動に費やすコストとリターンを天秤にかけ、業績の向上に寄与するものに的を絞って取り組む必要があります。明確なリターンがなければ、継続できなくなります。
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