本稿では「空室対策を検討するときに大切なこと」を3つに分解してご紹介します。
賃貸物件が古くなると、市場での競争力が落ちます。競争力が落ちると客付けが難しくなり「フリーレントか、家賃を下げるか」と悩み始める大家さんも出てくることでしょう。
いっぽうで「他の物件より便利なら、賃料上乗せも許容できる」と考える賃借人が、じつは少なくありません。つまり、適切な空室対策を順序立てて実施すれば、競争力を維持できて、賃料アップも夢ではなくなるということです。
収益を圧迫する施策は、最終手段です。まずは、賃料アップが狙える空室対策のアイデアを考えてみませんか?
目次
空室対策は、まず市場・競合物件・自社物件の調査から
収益改善につながる空室対策をおこなうには、どうすればいいのでしょうか。さっそく、空室対策を3つに分解して考えてみましょう。
空室対策に必要な施策
「空室対策」と聞くと、真っ先に「空き部屋を埋める対策」が頭に浮かぶ方が多いでしょう。確かに「空き部屋を埋める対策」は緊急性が高く、空室対策の主要な施策です。しかし、それが全てではありません。
ご存知のとおり、空室対策には「空き部屋を埋める対策」の前後にも大事な施策があります。まとめてご紹介しましょう。
- 調査:市場・競合物件・自社物件を調査する
- アピール:空き部屋をできるだけ早く埋める
- 退去防止:既存入居者の満足度を上げる
賃貸事業をされている方であれば、(1)や(3)の重要性はじゅうぶんご存知だと思います。順番に解説していきますので、ここからは「おさらい」のつもりでご覧ください。
市場・競合物件・自社物件の調査とは?
事業をされている方であれば、孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」やマーケティング戦略を考えるときに使う「3C分析」をご存知でしょう。どちらも「競合物件、自社物件、市場 (商圏)」の状況を知ることが大切と教えてくれます。
では、それぞれどんなことを分析していけばいいのでしょうか。例をあげてみましょう。
市場(商圏) |
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競合物件 |
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自社物件 |
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「市場・競合物件・自社物件」の状況は、お互い複雑に紐付きあっています。たとえば、自社の「弱み」は競合と比較することで決まります。「他社にない優位性」も他社との比較で決まり、かつ市場においてニーズがなければ優位たりえません。
三者同時におこなう分析を経て他社が真似しづらい「強み」を見つけ出し、その強みを喜んでくれる「セグメント (顧客層)」をターゲットとし、ターゲットから選ばれるうえで障害になる「弱み」を解消する。これが空室削減の第一歩なのです。
ターゲットが決まった時点で、打つべき「空室対策」も決まってくるでしょう。準備が整えば、あとはターゲットにむけて「あなたが探しているのは、こんな物件では?それなら、ここにあります!」とアピールすればOKです。
つづいて、どのようにアピールするとよいのか見ていきましょう。
空き部屋をできるだけ早く埋めるには?
上述の分析をおこなったあとは、できるだけ早く空室を埋めるために、ターゲットとなる顧客層にむけてあなたの物件をアピールしていく必要があります。
ここではあなたの物件の「強み」を活用しますが、その前にもう一度、以下を自問自答しながら施策がブレていないか確認しておくとよいでしょう。
- 強みを喜んでくれる顧客層は、どんな人か?
- その顧客層は、ちゃんと商圏に多数存在するか?
- あなたの物件は、顧客層のニーズを満たせているか?
なお「強み」がない場合は、つくります。その際は付け焼き刃の強みではなく、競合が真似しづらい強みをつくらねばなりません。そのような強みは一朝一夕にできるものではありませんが、ここが頑張りどころです。
たとえば、競合が簡単に手に入れられない「ロケーション、付加価値、ブランド、つながり(人間関係等)」などを土台にして「強み」をつくることができれば、真似されにくいでしょう。
内見数や成約率の向上を目指す
さて、あなたの物件に独自の「強み」があったとしても、入居希望者に内見してもらわないことには伝わりません。内見が増えたとしても、成約に至らなければ早期の空室解消につながりません。
ですから、以下はよく言われていることですが、やはり実直に手を打っておくべきでしょう。だれでも直ぐにできることなので差別化になりませんが、それだけに、やらなければ後れを取ります。
- 募集チラシを練って反応率を向上させる
- 賃貸検索サイトの掲載内容を見直し閲覧数を向上させる
- 内見の印象をよくする
代表的な内見対策も、あげておきましょう。
- 内見前に換気・清掃をおこなう
- 内見前に冷暖房をつけておく
- スリッパを用意しておく
- 夕方以降でも見やすいように照明器具を設置しておく
- POPやホームステージングを活用する
「内見対策」は物件を主語に施策を考えがちですが、人間関係の醸成も大切です。大家さんと管理会社の担当者が良好な関係を築けているほうが、築けていない場合より早く成約に至るのではないでしょうか。
なお、ホームステージングについては以下の記事でも解説しています。詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
障害になる「弱み」を解消する
ターゲットとなる顧客層を的確に捉え、その顧客層のニーズを満たしたとしても、物件選びの候補から外される場合があります。たとえば、以下のようなケースです。
- 設備や機器が老朽化している
- 間取りが古い
- 内装や外観が劣化している
わかりやすい例で言えば、和式トイレやバランス釜、電熱式コンロの物件は老若男女問わず不人気です。和室しかない間取りや収納がない間取り、洗濯機が外の間取りも避けられがちでしょう。内装や外観が魅力的でないと、写真映えがせず、内見希望者獲得の機会を失います。
いっぽうで、物件選びにおいて「築年数」の優先順位は高くありません。ですから、経年で失った競争力はリフォームで回復可能です。ターゲットと物件の強みがミスマッチしているなら、大胆なリノベーションで価値自体をつくり替えるのもひとつの方法でしょう。
顧客層から選ばれるうえで障害になる弱みを解消しておくことは、顧客層のニーズを満たすのと同じくらい大切です。
つづいて、どのようにニーズを満たせばいいのか、また退去者を減らすにはどうすればいいのか検討してみましょう。
空室を減らすための上策は、既存入居者の満足度アップ対策
ご存知のとおり、もっとも効果的な空室対策は退去者をなくすことです。そもそも退去者がいなければ、次の入居者の募集も、退去後のクリーニングも要らないのです。
とは言え、それが簡単にできれば苦労しません。どうすれば少しでも退去者を減らせるのか、検討してみましょう。
やるべきことを当たり前にこなす
退去者を減らすのに必要なのは奇抜な対策ではなく、愚直なほど基本的な対応の積み重ねではないでしょうか。「やらないよりやったほうが、入居者の満足度が上がる」ことを実直にやりつづけられるかどうかで退去率が変わるのです。
たとえば以下のような地道なおこないは、入居者の「満足度」の維持・向上に寄与するでしょう。できていないと退去率が上がりますが、当たり前のようにやると退去率が下がります。
- 設備不良が起きた際の迅速な対応
- 入居者どうしのトラブルを適切に解決
- 共用部分はいつもキレイにしておく
「そんなの当然すぎて、なんの変哲もない意見だ」と思われるかもしれません。しかし、上述のおこないをコツコツと積み重ねることで、入居者から大家さんへの信頼も少しずつ積み重なることは容易に想像できます。
そうして積み重なった信頼は、入居者にとってスイッチング・コスト(切替障壁)になります。スイッチング・コストが大きくなればなるほど、安易に転居しづらくなるのです。
顧客ニーズを満たし、付加価値をアップする
ところで、あなたの物件はターゲットとなる顧客層のニーズを満たせているでしょうか?
ニーズを満たす、すなわち「顧客層に選ばれる理由を多く持っている」物件は、ライバルが減って選ばれやすくなります。さらに入居者の満足度も上がるので、退去率の低減効果も期待できます。
では「ニーズ」とは具体的に何を指すのでしょうか。
たとえば、2020年10月号の『週刊 全国賃貸住宅新聞』には「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても決まる」と題して単身者とファミリーに人気の設備が掲載されています。
参考:週刊 全国賃貸住宅新聞「人気設備ランキング 2020」
この情報から、単身者がターゲットであれば「浴室換気乾燥機」や「ホームセキュリティ」のニーズが。ファミリーがターゲットであれば「追い炊き機能付きの風呂」や「システムキッチン」のニーズが高いとわかります。
さらに、以下の3つは単身者にもファミリーにもニーズがあり、備えておくことで競争力の向上が期待できそうです。
- インターネット無料
- オートロック
- 宅配ボックス
このランキングでは「男女、年齢層、地域性」による違いがわかりません。もしも単身女性に限れば「独立洗面台」や「TVモニター付きインターフォン」も上位にきたかもしれません。LPガス地域なら「都市ガス」が上位に顔を出したでしょう。
興味深いのは、リクルートがまとめた資料によると、これらの設備に対して入居者が「家賃が上がってもよい」と答えていること。つまり、ここであげた設備がある物件に付加価値を感じてくれているのです。
ひとつひとつの設備は些細な「ニーズ」かもしれませんが、顧客層が求めるものを多く備えると、それが確かな「強み」になります。「強み」を増やし、内見数の増加や退去数の低減に活用してみてはいかがでしょうか。
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