これから宅配ボックスは義務化される?賃貸経営への影響は?

宅配ボックスの設置は、これから全国的に義務化されるのでしょうか?現時点では条例等で義務化しているのは、「東京都江東区」や「埼玉県川口市」など、一部の自治体のみです。

しかし、人手不足や再配達問題を背景に、集合住宅で「必須の設備」とみなされる流れが強まっています。入居者の利便性を高め、物件の競争力を維持するうえで無視できない存在になりつつあります。

一方、導入には初期費用や維持管理の負担が伴い、設置を迷うオーナーも少なくありません。そこで本稿では、義務化の動向から設置メリット、さらにコスト回収の目安まで整理して解説します。

目次

宅配ボックスは、まだ全国的に義務化されているわけではない

宅配ボックスは、まだ全国的に義務化されているわけではない

宅配ボックスはまだ「全国的に義務化」されていません。ただし、一部の自治体では、条例によって新築時に宅配ボックスの設置を義務付けています。

これは「再配達問題」や「物流の2024年問題」に対応するためのローカルな動きですが、今後ほかの自治体に波及していく可能性があります。

とくに都市部に賃貸物件を持つオーナーさまや管理会社さまは、「自分の物件にいつ導入が求められるのか」を先読みして、備えておく必要性が高いでしょう。

東京都江東区のケース

江東区では、2022年に「マンション等の建設に関する条例」が改正され、宅配ボックスの設置が義務化されました。対象は「住戸数10戸以上かつ3階以上の新築マンション」です。

具体的には、「条例第24条」において次のように定められています。

事業者は、ファミリーマンション、ワンルームマンション又は小規模マンションを建設しようとするときは、規則で定める設置数以上の宅配ボックスを設置するものとする。

さらに「施行規則第19条」では、設置数の基準が明記されています。

設置数は住戸数の10分の1以上(小数点以下は切り上げ)とする。

つまり、100戸のマンションなら10個以上の宅配ボックスが必須となります。江東区でマンションを新築するオーナーさまは、もはや「宅配ボックスの設置」を避けて通ることができません。

むしろ、どのタイプを導入すれば「入居者に選ばれやすいか」「管理がしやすいか」を積極的に検討することが差別化のカギになります。

埼玉県川口市のケース

川口市では「ワンルームマンション等の建築及び管理に関する条例」に基づき、新築時の宅配ボックス設置が義務付けられています。対象はワンルームマンション等で、住戸数に応じた設置が必要です。

具体的には、「条例第6条の2」にこう規定されています。

建築主等は、ワンルームマンション等の建築にあたり、当該ワンルームマンション等の敷地内に、ワンルーム住戸の数に応じて必要な数の宅配ボックスを設けなければならない。

さらに、市が示す「条例の手引き」では、おおむね「住戸4戸につき1箱程度の設置」を想定していると記載されています。

たとえば「40戸」のマンションであれば、宅配ボックス10箱以上の設置が推奨される計算です。

義務化の背景にある社会課題と今後の動向

義務化の背景にある社会課題と今後の動向

宅配ボックスの義務化は突発的に出てきた話ではありません。その背景には、物流業界全体を揺るがす人手不足・再配達問題・2024年問題といった社会課題があります。

これらは相互に絡み合い、宅配効率を上げる仕組みの導入を急務としています。その解決策のひとつが、宅配ボックスです。

背景:人手不足と再配達率の高さにより導入が加速

宅配ボックスの導入が加速している大きな理由は、「慢性的なドライバー不足」と「依然として高止まりしている再配達率」です。

2024年問題(労働時間の上限規制による人手不足問題)が追い打ちをかけ、効率化はもはや不可避となっています。

▼「2024年問題」とは

2024年4月から施行された働き方改革関連法で、ドライバーの時間外労働は年間960時間に制限されました。結果として輸送可能量が減少し、人手不足が一層深刻化しています。

参考:厚生労働省 働き方改革総合サイト「トラックドライバーの場合」

宅配ボックスによる効率化は、この制約の中で配達量を維持するための重要な解決策と位置づけられています。

▼深刻な人手不足

EC需要の拡大で荷物は増え続ける一方ですが、労働力の確保は追いついていません。再配達の多さや労働時間規制の影響で、ドライバーの負担は増大しています。

宅配ボックスがあれば一度で複数の配達を完了できるため、人手不足を補う効果が期待できます。

▼再配達率が引き起こす非効率

国土交通省の調査(令和7年4月)によると、大手3社の再配達率は約8.4%。以前の20%水準から下がったとはいえ、10件に1件近くは再配達になっています。

これは労力だけでなく、燃料費やCO2排出のムダにつながり、環境面・コスト面の双方に悪影響を及ぼします。宅配ボックスの活用は、これを大幅に抑える有効策です。

このように、宅配ボックス義務化の背景には「社会的必然性」があります。人手不足・再配達・環境負荷という課題を解決するため、今後も導入拡大は進むでしょう。

オーナーさまにとっては、単なる「流行」ではなく、社会要請に応える長期的な投資として前向きに捉える姿勢が求められそうです。

問題点:現状では設置台数が足りていない

結論から言えば、宅配ボックスの最大の課題は「設置数不足」です。入居者・配送業者の需要に対して、物件側の供給が追いついていません。

▼需要の増加

EC利用の拡大により、一人あたりの受け取り荷物は年々増加しています。とくに単身者や共働き世帯では週に何度も荷物を受け取ることが珍しくなく、ボックスがすぐ満杯になる状況が生まれています。

その結果、せっかく導入しても、入居者や宅配業者から「いつも空きがない」といったクレームが増加するという、期待していた便利さが発揮されない状況が生じています。

▼供給の課題

一方で、物件オーナーさまには次のような制約があります。

  • 初期投資の高さ:とくに通信機能付きのタイプは、機器代・工事費・通信費が必要
  • 設置スペースの制限:既存物件では場所が確保できず、デザイン性を損なう懸念も
  • 運用ノウハウ不足:利用ルールの周知徹底が難しく、管理負担が増すリスクも

需要増と供給不足のギャップは、宅配ボックス普及の大きな壁です。

オーナーさまは「設置数の最適化」「管理ルールの整備」を意識し、運用面まで見据えた導入を検討する必要があります。

動向:今後の義務化拡大の可能性は?

宅配ボックスはまだ全国一律で義務化されているわけではありません。現状は「設置を検討してください」という誘導的な取り組みがほとんどです。

しかし、今後は他自治体へ広がる可能性が高いと考えられます。なぜなら、現在「人手不足の緩和」と「CO2削減」は重要な政策課題になっているからです。

▼他自治体にも広がるか

江東区や川口市で義務化が始まった背景には、「再配達による労働負担の増加」と「CO2排出量の削減」という全国共通の課題があります。

これらは地域固有の問題ではないため、他の自治体も義務化の結果に注目しています。同自治体が再配達率やCO2を大きく削減できた場合は、横展開もあり得るでしょう。

実際、板橋区では宅配ボックの導入後に再配達率が10分の1になったという調査結果もあるようです。

参考:読売新聞「都内自治体が『宅配ボックス』推進、再配達が激減」

さらに、宅配ボックスが入居者の利便性を高める設備として広く認知されたことで、設置を求める声は年々強まっています。

結果として、宅配ボックスは「付加価値」から「必須インフラ」へと位置づけが変わっていく流れにあります。

▼オートロックのワンタイムパスで置き配を可能にする手も

ただし、宅配ボックスにも弱点があります。満杯になったり、大きな荷物が入らなかったりするケースがあり、配達員にとっては「万能な再配達の解決策」となっていません。

とくにオートロックのマンションでは、ボックスが満杯の際は、荷物を持ち帰らざるを得ません。こうした問題に対応する手段のひとつが、オートロックの「ワンタイムパス」を活用した置き配です。

認証された配達員だけが建物内に入れる仕組みで、宅配ボックスの空き状況に左右されず、荷物を玄関に置き配できるのが強みです。

参考:ヤマト運輸「EAZY」

宅配ボックスを導入していないオートロック付きマンションは、ワンタイムパスもひとつの解決策になり得るのではないでしょうか。

知っておきたい導入メリットと費用

知っておきたい導入メリットと費用

つづいて、宅配ボックスを導入することで得られるメリットを確認してみましょう。単なる利便性向上にとどまらず、物件価値や収益性に直結する投資として考えることができます。

宅配ボックスを設置するメリット

結論から言えば、宅配ボックスは物件オーナーさまにとって「資産価値を高める設備」です。入居者ニーズの高まりに応えることで、空室対策や賃料の安定につながります。

▼空室対策・家賃維持

宅配ボックスは、いまや単なる付加価値ではなく、競争力を左右する重要な設備です。

とくに不在がちな単身者や共働き世帯、ネットショッピングを日常的に利用する入居者にとって、宅配ボックスの有無は物件選びの決め手になりやすいポイントです。

設置によって入居検討者の幅が広がり、結果として空室期間の短縮につながります。また、利便性をアピールできるため、家賃を維持したり、上乗せしたりできる可能性もあります。

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▼入居者満足度の向上・競争力維持

「再配達の手間から解放される」「夜遅くても安心して荷物を受け取れる」といった体験は、入居者にとって大きな安心感につながります。

こうした日常のストレスが減ることで、物件への満足度が高まり、長期入居や更新意欲にもつながります。結果的に、安定した収益基盤の確保にも寄与するでしょう。

設置費用とコスト回収の目安

宅配ボックスの設置には一定の初期費用がかかります。

そのため短期的な投資回収は難しいものの、空室防止や賃料維持といった間接的メリットを考慮すれば、中長期的には回収が可能です。

▼初期費用とランニングコスト

そもそも、宅配ボックスの設置には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?

設置にかかる主な費用は「本体価格」と「工事費」です。この費用は宅配ボックスのタイプやサイズ、そして個数で大きく変わるため、一概に「◯◯万円」と言いづらい側面があります。

たとえば、荷物を入れるたびに暗証番号を設定する「ダイヤル式」は比較的安価です。一方、近年の新築マンションで主流の「電子式」は、コンピューターで制御するため高価です。

強いて目安をあげるなら、10箱程度の宅配ボックスの設置費は以下のとおりです。

  • ダイヤル式:40~70万円程度
  • 電子式:80~110万円程度

電子式の場合は「電気代」と、管理・保守を委託する場合はその費用もかかります。

▼コスト回収シミュレーション

宅配ボックスがあることで家賃に「+1,000~2,000円」程度を上乗せできる場合があります。たとえば、10戸で月1,000円の賃料増となれば年間12万円。初期費用が100万円なら8~9年で回収可能です。

また、入居希望者が「宅配ボックスあり」を条件に検索するケースが増えているため、空室リスクを減らせる効果も大きいでしょう。空室ロスを防げるなら、実際にはもっと早く回収できます。

さらに、国や自治体の補助金を利用すれば設置コストを相殺でき、回収スピードが加速します。

▼コスト回収の難易度

コスト回収の難易度は物件規模とエリアの競争状況に左右されます。

小規模小規模アパートでは賃料アップが限定的で、コスト回収は長期化しがち。家賃による回収よりも「空室予防・選ばれる物件化」の間接効果が大きい。
中・大規模中・大規模マンションは、空室対策+賃料上乗せによる効果が大きく、比較的回収しやすい。早ければ、5~10年程度で回収できる場合もある。

いずれにしても、設置コストだけを見て判断するのではなく、空室対策や入居者満足度の向上、そして社会情勢も含めて検討することが大切です。

物件の将来価値を左右する投資として、宅配ボックス導入を前向きに考える時期が来ています。

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